2008年01月22日

ロンドン海軍条約調印

軍備制限の真相7

今回引用している書籍は、昭和七年三月に発行され、同年四月には五十八版を重ねた、海軍少将匝瑳胤次著「深まりゆく日米の危機」です。昭和七年頃までの米国の動きから、当時の日本と日本人が米国に対してどのような感情をもってどのような状勢判断をしていたかを知る資料になるものと思います。
写真は本書引用ページの部分です。
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引用開始
 窮すれば通ずとでも言うか、五国会議のこの難局に直面して抽象的ではあるが一道の光明が点ぜられた。それの一つは仏国外相ブリアン氏の仏国上院における軍縮演説と、他の一つは米国全権団の安全保障協約に関する声明である。・・・・・
 米国声明の真意に関してロンドンで行われた二つの解釈を照会すれば、
一、日本牽制策 
三国協定本位で行くとすれば日本の強硬な態度を押えることが困難だから、五国協定失敗の責任を日本に負わせようとする。そこで従来の三国協定本位から五国標準に還元するために仏国に秋波を送ったものだ。
二、仏国牽制策
英、米が協議条約を受諾することは形の上で英、米二国が仏国に譲歩したことになるからその点仏国の頑強な態度を軟らげようとしたものだ。
 と云うのである。何はともあれ、この米国の重大なる転向はロンドン会議に一脈の精気を注入したので各国全権の往来が一と仕切り頻繁となり安全保障問題は今や会議の中心点であるかのごとき観を呈した。・・・・

 米国全権は十日朝一提案を各国全権に示した。この案は過去三ヶ月間の会議の成果をまとめて五国条約となすもので、
一、主力艦海軍休日の延長並びに廃棄(一次不明)上に関するもの
二、航空母艦に付いての規定
三、海軍制限方式
四、潜水艦の艦型制限
五、潜水艦の使用に関する制限
六、制限外艦艇に関する規定
七、廃棄すべき艦艇に関する規定

 を含みこれに加うるに日、英、米三国間に成立した保有量に関する協定を包括せしめる案で、これを一括して五国条約となし、三国協定に関する部分は後に至り、仏伊問題がまとまれば両国とも参加し得ることとし、然も三国に関する限り三国が批准を終了した時を以て効力を発生せしめる案である。・・・・・
 かくて軍縮会議の大綱は定まり、英仏、仏伊関係は不調のままに折合い、五国条約の起草も完了したので四月二十二日いよいよ最終総会を開いて晴れの調印式を行うこととなった。・・・・

 さてこの調印した五国条約を大観すれば、名は五国条約ではあるが、その実質に至っては日英米の三国協定に過ぎないものである。
第一仏伊両国は今次会議の主要目的たる補助艦制限に関し何等の拘束を受けておらない。ただ英仏伊は今後も協議を継続して、何等かの協定を発見しようという諒解を交換したに過ぎないのである。・・・・
 然らば日英米三国はいかなる協定をしたかと云えば、主力艦一定数の廃棄、代艦建造の五ヵ年延期、航空母艦の制限、大型巡洋艦以下の保有量、制限外の艦艇、並びに縮限方式を協定したが、これを実質的に見れば、米国の命令案を鵜呑みにしたこととなるのである。何故なれば紙上の計画のみで現物を持っていない米国が、その計画を基礎として将来自国の保有量を定め、その保有量によって英国には均勢を強い、更に日本の保有量を割出して、これを協議の基礎としてほぼその成功を収めたからである。
 自国の立場を放れた単なる軍縮の点から観てもこの米国の定めた数量は甚だ不満足なるものである。即ち日英両国に於て十一万トン余の廃棄縮少が行われるが、米国は却って一万トンの拡張となるのである。更に日本の立場から云えば、我国の最小限度の国防量とし大巡七割、潜水艦現有勢力保持なる主要の主張は一も達成せられず、却って要求もしない軽巡量を増勢せしめて総括七割弱の保有量を押付けられたのであるから、最も有用な潜水艦において二万六千トンの廃棄を強要せられて要りもしない軽巡に七割の拡張をあてがわれたこととなって日本は必要なものを縮少して不要なものを拡張することになった。何のための軍縮会議だか判らなくなるのである。・・・・

 然らばこの数字的議論を離れて、真に世界の平和に貢献する政治的安全保障が出来たかと云えば、これまた一つも発見することが出来ない。仏国があれほど熱心に五国安全保障を提唱しても英米二国はこれを一蹴して当初の宣言を裏切ってしまったのである。不戦条約は戦争防止の道義的一致の宣言である。これを基調とした今次の軍縮は少なくともこの宣言に一層の有権的進境を示すのが当然である。しかしその実際の経過はジュネーヴ会議と何等の相違はなく、ただ強国の優越を机上に固定せしめんとしたに過ぎなかった。暫く欧州方面の関係を措くとしても、従来の太平洋上の協約が果して極東の安全を保障し得るであろうか、誰もがその然らざるを拒まないであろう。これ日本が七割といい、米国が六割を強いんとするゆえんであり、何人も戦争なしと予言し能わざるところである。
 米国が東亜に持つ関心は、その貿易であり、さらに進んでドルの進出である。それが旨く行かないからとて事毎に日本を敵視して軍縮の名をかって、日本の武力を必敗比率の六割に強制せんとするのは、余りに得手勝手の横暴ぶりで、それが多くは日本に対する認識の不足から出た錯覚であるとしても、日本にとっては許すべからざる侮辱である。
 米国にして大統領宣言のごとき真の平和を愛好し人類の福祉を希求するものならば、先ず以て太平洋上の政治的安全保障を確立して、始めて軍縮を徹底することが出来るのである。この点に関して日米両国が甚だ冷淡なる態度を以て会議に終始し遂に何等の足跡をも残さざりし事は最も遺憾とするところである。たとえスチムソン全権が『本条約は太平洋の彼方の我が善隣との間の官軍関係をも確立し、吾々が極東における安定と進歩とを待望する彼の大国民と吾々との友好関係の今後も引続き増大して行くことを保障するものである』と演説したからとて、それをそのまま正直に受入れるばかはないのである。
引用終わり
posted by 小楠 at 07:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 書棚の中の戦争
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