2008年01月19日

ロンドン会議の論争

軍備制限の真相5
今回引用している書籍は、昭和七年三月に発行され、同年四月には五十八版を重ねた、海軍少将匝瑳胤次著「深まりゆく日米の危機」です。昭和七年頃までの米国の動きから、当時の日本と日本人が米国に対してどのような感情をもってどのような状勢判断をしていたかを知る資料になるものと思います。
写真はマクドナルド英全権・首相(wikiより)
macdonald.jpg

引用開始
 五国海軍会議は全世界の異常なる視聴を集めつついよいよ1930年1月21日午前11時、英京ロンドンの上院ローヤル・ギャラリにおいて英国皇帝陛下御親臨の下に開会式を挙行した。
 かくして1930年の世界外交はこの意味深い国際会議をもって序幕とし永く歴史の上にその大きな足跡を印した。
 当日各国首席全権の演説要旨を摘録すればその対軍縮の意図の一端が窺われるのである。

日本全権 若槻礼次郎 現実の縮少
『日本の平和政策はワシントン会議及びジュネーヴ会議において端的に宣明せられまた我国が国際聯盟各般の事業に対し熱心に参与せる事実に徴しても明らかなるところである。彼の不戦条約の精神及び目的に対し我国が喜んで賛同せるゆえんもまたこの平和政策に則れるに外ならない。吾人は今やこの不戦条約を出発点として本会議の審議を進めんとしている。されば参加各国が相互にその態度及び政策を十分に了解し同情を以て相接するものなるを確信する。
 日本は参加諸国と相携えて海軍軍備を極度まで縮少するの用意あるを宣明する。日本は単に海軍力の制限に止まることなくこれが現実の縮少を行わんと欲するものである。ただこの縮少につき日本の関心する所は攻撃的作戦には不十分なるも帝国を防衛するには足る程度の勢力を保有し以て国民の安全感を動揺せしめざるの点である』云々


英国全権 マクドナルド 最小限を基礎に
『・・・・余は主要海軍国の海軍計画において完全のため必要なる兵力と現有又は既定計画による兵力との間に開きあり、世界はロンドン会議が右開きを除去せん事を期待せるものなる事を敢て確言せんとするものである。吾人の事業を容易ならしむるためここに二個の想定を設けて見るに、第一は過去の会議は各国がその地理的位置、国際的責任及び戦争の場合における攻撃地点等により兵力の需要を異にするものなる事従って一艦種の一トンは他の艦種の一トンと全然異なるものなること及び各国の需要を無視したる無意味なる方式又は実際に副わざる表面上の均勢を基礎とせる協定の不可なるを理解せざりしがため失敗を繰返えせり。吾人は各国需要の均衡を基礎とし且つ他国の不安を引起さざるが如き最小限度に定められたる海軍計画を基礎として協定を結ばざるべからず。
 第二に軍備は陸海空の三軍に判然分割し得ずといえども実際的処理としてはこれを各別に論議しただある一点に関し結論に達する場合これと他の二軍との関係を忘れざれば可なり。各国は三軍の各々に付き同一の利害有するものにあらずして例えば英国の国防は専ら海軍によらざるべからず従って英国が現実に平和に貢献するは海軍国としてこれを為さざるべからず・・・・吾人がその最大軍備の一を協定によりて制限ししかも国の安全を減ぜずかえってこれを増すを得ばロンドン会議は人類進化の一大階段となるであろう』

米国全権 スチムソン 軍縮は永久事業
『・・・・我々は軍備制限をもって更に相連続する地歩と頻繁なる改訂並びに改善によって到達さるべき目標であると考えている。今日到達すべき解決は決して後日における状態に応じ得べきではない、従って健全にして明確なる進路は将来適当の期間を置いて改訂さるべきである事を諒解した上で現在可能なる協定に到達する事でなければならぬ』

仏国全権 タルヂュ 吾人の任務は武力の征服
『軍縮会議は重大なる責任感をもって平和樹立の手段を海軍軍備の制限及び縮少という限局せられたる範囲で試みんとしているのだ。解決は数学的方式のうちには発見しないであろう。・・・・今や各国は各々の見解がいかに差異あるものであるにせよ、各国が益々必要を感ずる安全保障と相関連せしめて考慮すべきだ。いわゆる平和の組織とはこれだ。・・・』

伊国全権 グランヂ 軍縮史上に具体的効果
『ファッショ政府は軍縮と安全保障の具体的効果を得んことを切望している。・・・・イタリーは軍縮の具体的協定に達する提案に対して常に欣然としてこれに応じたのみならず自発的に自国の軍備を縮少し現在最小限度の軍備を維持しているに過ぎない。これイタリーが今回の会議に喜んで参加したゆえんだ。今回の会議は軍備を制限するに止まらず、縮少の希望に対し断然具体的な証左を示さねばならぬ。もしこれに反して参加各国全権が現在の軍備をそのまま何等かの名目で保持せんがために議論を戦わすがごとき事あらば会議はここに失敗に帰せざるを得ない・・・・』
引用終わり

これら五国の中で、アメリカは一体他国からどんな脅威を感じていたのでしょうか。アメリカ本土に攻め込むような国が当時想定されたでしょうか。そのアメリカが英国と並んで最も多くの軍備が当たり前のようにし、日本の軍備縮少を迫る意図は何であっかも考える必要があるようです。
posted by 小楠 at 07:14| Comment(0) | TrackBack(1) | 書棚の中の戦争
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/9728065
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック

台湾総統選候補者・馬英九氏は本当に独立を否定するのか
Excerpt:  台湾立法院選挙で圧倒的な大勝を得た国民党、3月下旬の総統選挙に向けて一段と運動に力が籠められているようだ。有力候補者の国民党前主席・馬英九氏は、「統一せず、独立せず、武力行使せず」のスローガンで精力..
Weblog: 陸奥月旦抄
Tracked: 2008-01-20 19:12