2008年01月14日

米国軍縮提唱の意図

軍備制限の真相2

今回引用している書籍は、昭和七年三月に発行され、同年四月には五十八版を重ねた、海軍少将匝瑳胤次著「深まりゆく日米の危機」です。昭和七年頃までの米国の動きから、当時の日本と日本人が米国に対してどのような感情をもってどのような状勢判断をしていたかを知る資料になるものと思います。
写真はこの本の三章冒頭部分です
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引用開始
 ジュネーブ会議(1927年)においていかに軍縮会議の協定の困難なるか、名は軍縮であっても実は強国優越権の確保を目的としている拡張会議であったという事が、まざまざと観取されるのである。首唱国の米国は何等の犠牲を払わずして他国の優越を制止し、その期間において自己の拡張を遂行し、新式有力なる艦船を建造してその劣弱を補い、かくて出来上がった優秀艦隊を以て世界に君臨せんとの企図である。
 これほど虫のいい話があろうか。自分は競争に負けたから、暫く俺の準備が出来るまで先に行くのを待ってくれ、どうせ俺は一番になるのであるからと云うのである。もしこの思想を国際的に推し進めれば、独立国家の自衛権を折伏して強国優越の前に跪座せしむることになるのである。またそれが世界平和の最捷径であると云うのならば議論は別になるが、いやしくも海軍軍備に関する限り各自国、国情の上に立ってその周囲の状況を観察し、国策上他の脅威を受けざる程度にその計画を立つべきである。

 もし一国にして侵略の企図を以てその軍備を拡張すれば、その対象となるべき一国は国家擁護のため自衛権の発動を見るのは当然である。この自衛を怠った国はその際滅亡の外はないのである。日本の海軍拡張は皆他国の脅威に促されて止むを得ず苦しい中から生まれた自衛の産物である。その結果は自然に西太平洋の優位を占めることになったが、これを以て戦争を誘発する動因と見るのは、世界の現状を破壊して強国君臨の覇業を樹立せんとする強国の口実に過ぎぬ。強秦の六国に臨んだ時と何の相違もないのである。されば米国が真実世界の平和を庶幾するならば、先ず以て他の脅威を受けざる国柄に顧みてその海軍を縮小すべきである。
 米国全権ギブソンの常に口にせる『軍備は相対的である』という理論は覿面に実現されること請合である。何を好んで日本が米国を進攻する海軍を造ろう。いわんやまた英国にしても米国と戦うの愚を学ぶであろう、畢竟今日海軍拡張の趨勢を促す主要の原因は唯々米国自身の海軍拡張熱であるのである。彼らが強いてワシントン会議の延長を楯に取って、有りもしない無形の勢力を以て優勢なる日本の現実勢力を五・五・三の比率に押し付けようとするのは実に言われなき強秦の振舞いである。

 米国が勝ち誇れる国民の矜持と富み栄える国力とを以て、世界第一の海軍を保持し英国伝統の制海権を打破しようとするのは、吾人の関する所ではない。吾人はただその信ずる所に従って我が自衛権を擁護すればよいのである。然しこれを以て国際的不和の禍因を除去する同様の希望として他の列国を律するのは、その根を塞がずしてその末を堰かんとするに異ならないのである。
 自分の蒔いた種子を鋤取らずして、その枝葉の叢生をかこつようなものである。それでもワシントン会議においては現状勢力を基準として兎も角も各国一様の犠牲を払って主力艦の協定が出来、負担の軽減をかち得た。ただその比率において余りに勝敗の数を固定したから、勢い第二の補助艦競争を促した。ワシントン会議において今少し大国の襟度を示して真に世界の平和を庶幾する道義的実証を明示する態度を執ったならば、爾後の競争はさほど激しくはなかったであろう。
 五・五・三・一,六八の比率は日仏伊がその国防線上にあっていかに踏ん張っても英米に勝つ見込みは絶対にない比率である。勝つ見込のない国防は果して何を意味しよう。固定以外の他の艦船を以てその欠陥を補わんとするのは、独立国家の当然の責務である。この国家の当然の責務を認識するの雅量なくただひたすらワシントン会議の延長を主張し、しかも現有勢力論を一蹴して夜郎自大の宿望を達成せんとするに至っては、米国たるものまた余りに浅慮横暴の振舞いと云わなければならぬ。仏伊が米国の真意を洞察してその提言を拒絶したるはまことに賢明の所為であった。我国が三国会議に応召して英米のいがみ合いをよそに、終始穏当合理の主張を繰返したのもまた等しく賢明の所為であったが、なぜもっと積極的行動を執って、堂々強国の犠牲が自然の軍縮を促すゆえんを高調しなかったかを惜しむのである。・・・・・

 尚この会議において私の前言を裏書するのは米国全権ジョンス少将の日米比率論である。彼は我が全権及び専門委員等の会見において左の通り言明している。
『・・・・・率直に云えば西太平洋交戦区域に於ては米として必ずしも優勢を求める次第ではないが、日本に対しては優勢を与えることを欲しない。しかるに米海軍の研究によれば米日比率十対五なるとき右の交戦海面において日米は均勢である。仮に巡洋艦級米国二十五万トン、日本十五万トンとし、両者ともその全部を一万トンとした場合には、米は交通線長く補給部隊の護送修理等のため、交戦区域に常置し得るは七隻に過ぎない。これに反し日本は常に十隻以上を活動せしめ得るではないか』
 以上は数次の会見における彼の所論を総合したのであるが、彼は問うに落ちず語るに落ちて最も率直に米国政府の軍縮精神を表白したのである。
 先ず第一に米国の軍縮の真意は日米戦争を予想して組立てられていることである。しかも日米対等の戦争でなく西太平洋の侵略戦を予想しているのである。即ち米国より仕掛けて来る戦争の場合にその優勢を保持しようと云うのである。
第二にもし俺の割当てる比率に不承知を唱えるなら、米国の無限の富はいつでも建艦競争に勝って見せるぞと最後の奥の手で嚇かすのである。まだそればかりではない。日本貿易の最大の顧客たる有利の位置を占めて、これをも一まとめとして鬼面人を嚇かすのである。
第三に日本屈服の圧倒的比率を研究して地理的不便の口実に隠れてその比率を押付けんとする。これは素人だましに過ぎないもので戦略的見地から見ればジョンスの所論は無価値である。・・・
引用終わり
posted by 小楠 at 09:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 書棚の中の戦争
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