2007年12月30日

石井ランシング協商

 いつも拙ブログをお読み頂いて有難うございます。本日で平成19年最後のアップとさせて頂きます。
新年が皆様にとってよき年となりますよう、陰ながらお祈り致します。

日米抗争の史実6

 今回引用している書籍は、昭和七年三月に発行され、同年四月には五十八版を重ねた、海軍少将匝瑳胤次著「深まりゆく日米の危機」です。昭和七年頃までの米国の動きから、当時の日本と日本人が米国に対してどのような感情をもってどのような状勢判断をしていたかを知る資料になるものと思います。
写真は昭和七年に発行された引用本です
kiki.jpg

引用開始
 日本政府は石井大使を特派使節として米国に派遣し、我が国に対する米国民の不信疑惑の感情を一掃し且つ独支方面よりする反間運動を阻止せしめんことを欲して、米国政府と会商させたのである。
 会商の結果両国政府に比較的好都合な覚書が交換されることになった。先ず国務卿ランシングから石井大使に宛てたものは
『支那共和国に関して貴我両国政府の共に利益を感ずる諸問題につき、本官は最近閣下との会談中、意見の一致したるものと了解する所をここに閣下に通報するの光栄を有する』と冒頭して下のように述べた。
『合衆国及び日本国政府は、領土相接近する国家の間には特殊の関係を生ずることを承認す。従って合衆国政府は日本国が支那に於て特殊の利益を有することを承認す。日本の所領に接壌せる地方に於て殊に然りとす』
『尤も支那の領土主権は完全に存在するものにして、合衆国政府は日本国が其の地理的地位の結果、右特殊の利益を有するも、他国の通商に不利なる偏頗の待遇を与え、又は条約上支那の従来他国に許与せる商業上の権利を無視することを欲するものにあらざる旨の日本政府累次の保障に全然信頼す』
合衆国及び日本国政府は毫も支那の独立又は領土保全を侵害するの目的を有するものにあらざることを声明す。且つ右両国政府は常に支那に於ていわゆる門戸開放又は商工業に対する機会均等の主義を支持することを声明す』
『将またおよそ特殊の権利又は特典にして支那の独立又は領土保全を侵害し、若しくは列国臣民又は人民が商業上及び工業上に於ける均等の機会を完全に享有するを妨害するものについては、両国政府は何国政府たるを問わず、これを獲得するに反対なることを互いに声明す』

 これは1917年11月2日の日付であるが、これに対して石井大使からも同意義の回答を発した。これが11月7日を以て発表されたいわゆる石井ランシング日米新協商である。・・・・
 支那が聨合国の勧説によって、1917年、聨合国の一員として参戦(第一次大戦)した動機には、種々魂胆があったことは勿論であるが、支那自身としては戦後の平和会議に発言権を得て、支那問題に対する列国の自由処分を妨げ、同時に戦利権の分配に与り国権恢復運動の機会を掴まんとしたのは当然であるが、其の背後に於てこれを操る主要人物は駐米公使ラインシュであったことは争われない事実である。彼は支那当路者に説くに支那は参戦の結果日本の圧迫より逃れ、同時に多くの利権を恢復し得るであろうと勧告して居ったのである。・・・・


 ところで支那は戦争に対する貢献極めて僅少であったに拘らず、参戦義務履行に関する覚書によって、講和会議に参列する権利を取得したので、1919年のパリ平和会議には外交総長陸徴祥、駐米公使顧維鈞、広東参議員副議長王正廷、駐英公使施肇基、駐白公使魏衷組の五人を支那全権に任じて即時パリに向け出発せしめた。このうち顧、王、施の三全権は共に米国大学の出身で、なかんずく顧、王の両人は米国国務卿ランシングと親密の間柄で親米排日主義者であった。・・・・
 パリ会議に於ける支那の主張は、一つは支那はドイツに宣戦しているから、山東に於けるドイツの権利は消滅したものであり、従って山東のドイツの権益は直接ドイツから還付さるべきであるという反日本的主張と、いま一つは、正義人道と民族自決との主義に則り、従来の勢力範囲の撤廃、外国軍隊及び警察官の撤退、外国郵便局の撤退、領事裁判権の撤廃、租借地の還付及び居留地の廃止、関税自主権の回復等を主張したのである。・・・・
 この時期に於て米国大統領ハーディングの名によって、1921年日、英、仏、米、伊、オランダ、ベルギー、ポルトガル、支那の九カ国を召集して、ワシントン会議が開かれたのである。・・・・

 この九国条約の締結は支那の独立、領土保全、及び行政上の完全なる主権を尊重して、支那の不平等条約廃棄の要求に原則的承認を与えたものである。また支那の門戸開放、機会均等のためには、支那に於ける特殊勢力の範囲内に於て列国の平等権を求めるという従来の消極的意義から、支那の全領域内に於ける特殊的利益の設定を排除するという積極的意義を持つようになったのであるから、これまた満州に於ける日本の特殊地位の原則的否認となるのである。従って満州に於ける日本の特殊関係を承認した石井ランシング協定は自然廃棄されることとなったのである。
 このやり口は、対支活動に対するおくればせの米国としてはまことに賢明な策に出でたものと言わなければならぬ。また米国伝統のジリジリ押しの外交に一大成功をかち得たものである。・・・・

 然しこの米国流の政策は、将来果して日米間の紛議をもたらさないでおこうか。日本は日清日露両戦役を経て満州に特別の関係を生じている。投資すでに14億と称し、日鮮百万の居住者がある。地域狭小なれども関東租借地を有し、六百余マイルの南満鉄道を持っている。この他接壌地域に基く特殊利益関係がある。我々が満洲を以て我が特殊勢力権視するのは二十年来の普通の感情となっている。しかも日本は生存上、はたまた将来の発展上みだりにこの感情を捨てるものではない。これに対して米国が極端な機会均等主義をふりかざして来れば、そこに日米紛争の避け難い何物かが残されてあることを念はねばならぬ。
引用終わり
posted by 小楠 at 09:48| Comment(2) | TrackBack(1) | 書棚の中の戦争
この記事へのコメント
小楠さん、新年あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。
最近、じっくり読ませていただく時間がとれなく残念です。興味深いエントリーが続いてますので、近々時間を割いて読ませていただきます。
Posted by おばりん at 2008年01月02日 12:41
おばりん様
おめでとうございます。
旧年中は色々勉強させて頂きました。
今年も何とぞよろしくお願い致します。
先ほど修行先の雪の温泉から帰ってきました。
Posted by 小楠 at 2008年01月03日 18:26
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/8929158
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。

この記事へのトラックバック

謹賀新年
Excerpt:  当地は大雪の正月になりましたが、今年もどうぞ宜しくお願いします。  昨年は、予想外のことが沢山ありました。でも、全体として日本は平穏に流れた様に感じます。安倍首相辞任には驚きつつ、只今大方の日本人..
Weblog: 陸奥月旦抄
Tracked: 2008-01-05 19:03