2007年04月18日

天皇とグラントの対話2

外債、外交についてのグラント将軍の意見

 アメリカ南北戦争で勇名をはせ、戦後は大統領を二期つとめたユリシーズ・シンプソン・グラント将軍(1822〜85)は、1879年6月に長崎に来航、国賓として約二ヶ月半日本に滞在しました。
この本は随行した書記のJ・R・ヤングの著です。
「グラント将軍日本訪問記」から。明治天皇から希望されたグラント将軍との長時間の対話について、今度はおよその内容を引用してみます。
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引用開始
 日米間で取り決めた条約[吉田・エバーツ条約]によって、日本もどうやら独力で外国貿易を行える権利をもったが、その条約に満足の意を表したことから、話題はアジアにおける外交政策に転じた。グラント将軍は次のように語った。

「ヨーロッパの発展とアジアにおける外国の影響を研究することほど興味をひいたものはありません。インド滞在中に、イギリスがこの国をどうしたかがわかりました。イギリスによる支配が結局はインド人のためになっているように思います。イギリスがインドから手を引くと、インドは無秩序になります。インドの統治法を見ると、遺憾に思われる点もありますが、ほとほと感心させられる度合の方が多いのです。
 しかし、インドを発ってからというもの、ヨーロッパの列強がアジアの国々を堕落させようとしているのを見て、何度もはらわたが煮え返るような思いがいたしました。
 そんな政策がまかり通るようであってはなりません。どうもアジアの国々を独立させないようにするのが彼らの狙いであったようです。この件は私に痛切にこたえたし、国の友人に宛てた手紙の中でも強調しておきました。
 日本や清国についても同じようなことがいえるように思います。故国においては、独立と国民的生存にとって不可欠なものとみられ、またヨーロッパのどんな小国であっても断じて放棄することのない権利が、日本や清国で認められていないのには驚くほかありません。
 いろいろな権利の中でも、関税権ほど重要なものはありません。一国家の運命はしばしば貿易に左右されることがあり、国は貿易によって生じる利益をすべて受ける資格があります。ことに日本は貿易を監理できさえすれば、大きな重荷となっていた地租を免除できるように思えます。
 重税を課しますと国民は貧困に陥り、農業の発展が阻害されます。収穫の半分を租税として収めねばならぬとしたら、農夫はたぶん生活できる分しか作らないでしょう。もし地租を軽減できれば、きっと日本の農業は盛んになるでしょうし、そうなれば国民の生活は豊かになり、購買と消費が伸びますから、結局は貿易にとっても良いのです。
 イギリスやフランスやアメリカの貿易と同じように、日本の貿易も国家の歳入の一部を形成しているのであれば、地租を軽減することができるように思えます。
 わが国の政府が貴国と条約を結んだことをうれしく思います。他の国々もこの条約に賛意を示してほしいと思います。しかし、いずれにしても、私はアメリカ国民についてよく知っているつもりですが、彼らは党派を問わず日本の独立を心から願っております。わが国民は太平洋に大きな関心を寄せておりますが、アジアの国々の独立と合致しないものは何一つ持ってはおりません。」

 対談中に持ち上ったもう一つの話題は、国債の件であった。

「ヨーロッパの国々に借金することだけはなんとしても避けねばなりません」とグラント将軍は言った。
「政府が国民から金を借りる分には問題はありませんが、外国から借金すればきまって危険や屈辱が伴います。日本はヨーロッパの金融市場に入れませんし、自国にとって有利な借款を申し込めなくなるでしょう。エジプトの例がよい教訓となっております。エジプトは手当たりしだいに借金し、あげくの果てに莫大な負債を負いました。結果からいえば、この国は債権者の意思に従うようになってしまったのです。
 トルコもまた同じような理由から苦しんでおります。日本のような国は、自分の事業に必要な金をすべてもっておりますが、外国から借金すれば、エジプトの例に違わず、ドン底に落ちることでしょう。」
 グラント将軍は借款の件について天皇に懇々と説いた。

 話が一段落したとき、「借款問題と同じように関心を払っている問題がもう一つあります」と言った。
 グラント将軍は、清国に滞在中、摂政[恭親王]や天津総督[李鴻章]から、琉球問題に関して日本政府との仲介役になって欲しい、との依頼をうけた。この問題はわざわざ彼が骨を折るべき筋のものではなかった。・・・けれども平和を重んじるあまりこの依嘱を無視できなかった。
・・・・・日清両国が、この件で外国に相談をもちかけず、懸案を解決するために犠牲的努力を払い、友邦もしくは同盟国たらんとしていることを知って、グラント将軍は大変ご満悦であった。・・・・
 日清両国は外国の意見に左右されずに独立を維持できる力をつけてほしいと、グラント将軍は願った。・・・・

 日本はこれまで清国に対して深い親愛の情を抱き、この国との友情をとても大切にしてきたが、友好関係を保つためなら、尊厳をそこなわない範囲で全力を傾けるつもりである、と太政大臣は言った。・・・・

 陛下の耳には他からもいろいろと忠告が入るかもしれない。東洋には、日清両国が面倒を起すことをあおるような、外国の強力な力が認められたからである。誰でもきっとその力に気づくはずだし、戦争を誘発するかもしれぬ力に屈服するようなことになれば、日清両国はきっと言語に絶するような災難にあうかもしれぬ、とグラント将軍は言った。
 もし戦争にでもなれば外国の介入は必至だろうし、彼らは都合のよいときに戦争を終わらせるのである。東洋におけるヨーロッパの外交の歴史は紛れもなくこのことを如実に物語っている。
 日清両国はまず外国にくちばしを入れさせずに、会合の場をもち、琉球問題やその他の問題に関してよく話し合って完全かつ友好的な合意に達しなければならない。外国が介入するとろくなことにならないので、二国間でよく話し合わねばならない。
 グラント将軍は、日本の教育機関をいろいろ勉強できて楽しかったことを陛下に伝えた。彼は日本の学校が急速に設立されたことに驚くと同時に、満足の意を表したのである。東京の工部大学校ほどすばらしい学校は、世界にも類がないように思えた。英語の学習にも大きな関心が払われていたので、うれしく思った。・・・・
引用終わり
posted by 小楠 at 07:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 書棚の中の人物
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