2007年02月11日

海幸彦と山幸彦

さて、いよいよ神武天皇に近づいてきました。丁度今日は紀元節・建国記念の日。そして皆様もよくお聞きになったと思いますが、ここでは海幸彦と、神武天皇の祖父にあたる山幸彦のお話を掲載します。
神話に関しては、本からの贈り物様と杳路庵摘録日乗様の所で楽しいご本が紹介されています。
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 さて、ホデリノ命は海幸彦として、大小さまざまな魚を取り、ホヲリノ命は山幸彦として、大小さまざまの獣をお取りになった。ある時ホヲリノ命が兄のホデリノ命に「それぞれ猟具と漁具を交換して使ってみよう」と言って幾度もお願いになったが許されなかった。しかしやっとのことで取り替えてもらうことができた。
 そこでホヲリノ命は漁具をもって魚釣りをされたが、一匹の魚も釣れず、その上釣針を海で失ってしまわれた
 そこで兄のホデリノ命はその針を求めて「山の獲物も海の獲物も、自分の道具でなくてはだめだ、今はそれぞれの道具を返そう」と言うと、弟のホヲリノ命は答えて「あなたの釣針は、魚を釣ろうとしても一匹も釣れず、とうとう海に失くしてしまいました」と言われた。けれども兄は無理やり返せと責めたてた。そこで弟は着けていた十拳剣を砕いて、五百本の釣針を作って償おうとされたが、兄は受取らず、また千本の釣針を作って償おうとされたが受取らないで、「もとの釣針を返せ」と言った。

 弟が泣き悲しんで海辺におられた時に、塩椎神(しおつちのかみ)が来て、「虚空津日高(そらつひこ[ホヲリノ命を指す])が泣き悲しんでいるのは、どういうわけですか」と尋ねると、「私と兄と釣針を取り替えて、その釣針を失くしてしまったのです。それで釣針を返せと言われるので、沢山の釣針で償おうとしましたが受取ってくれず、『もとの釣針を返せ』と言うので泣き悲しんでいるのです」と仰せられた。

 そこでシオツチノ神が、「私があなたのために良いことを考えましょう」と言って、すぐに竹を隙間なく編んだ籠の小船を造って、その船にホヲリノ命を乗せて、「私がこの船を押し流しましたら、しばらくそのままお進みなさいませ。よい潮路がありましょう。そこでその潮路に乗ってお進みになったならば、魚の鱗のように家を並べて作った宮殿があって、それが綿津見神(わたつみのかみ)の御殿です。その神の宮の御門においでになられましたら、傍らの泉のほとりに神聖な桂の木があるでしょう。そしてその木の上にいらっしゃれば、その海神(わたつみのかみ)の娘があなたのお姿を見て、取り計らってくれるでしょう」と教えた。

 そこで教えの通りに少しお進みになると、全てその言葉の通りであったから、ただちにその桂の木に登っておいでになった。するとワタツミノ神の娘の豊玉比売(とよたまびめ)の侍女が、器を持って水を汲もうとしたとき、泉の水に光がさしていた。ふり仰いで見ると美しい立派な男子がいたので大変不思議に思った。このときホヲリノ命はその侍女の姿を見て、水がほしいと所望なさった。侍女はすぐに水を汲んで器に入れて差し上げた。
 ところが、水を飲まずに、お頚にかけた玉を解いて口に含んで、その器に吐き入れなさった。するとその玉は器にくっついて、侍女は玉を外すことができなかった。それで玉の着いたままの器をトヨタマビメノ命に差し上げた。

 そこでトヨタマビメは器の玉を見て、侍女に「もしや門の外に誰かいるのですか」と尋ねると、侍女は「人がいて、私どもの泉のほとりの桂の木の上におられます。たいそう美しいりっぱな男性でございます。わが海神宮の王にもまさるたいそう貴いお方です。そしてその人が水を所望なさるので、差し上げますと、お飲みにならずに、この玉を器に吐き入れなさいました。この玉を引き離すことができませんので、玉を入れたまま持ってきて差し上げているのです」と申した。

 それを聞いてトヨタマビメノ命は不思議に思って、外に出てホヲリノ命の姿を見るや一目惚れして、互いに目を見合わせて、姫はその父に、「我が家の門前に美しい立派な方がおられます」と申し上げた。そこでワタツミノ神が自ら門の外へ出てみて、「この方は、アマツヒコの御子のソラツヒコだよ」といって、ただちに宮殿の中に案内して、アシカの皮畳を八重に重ねて敷き、またその上に絹畳を八重に重ねて敷き、その上にお坐らせして、沢山の台の上に載せた品々をととのえてご馳走を差し上げ、やがてその娘のトヨタマビメと結婚させ申し上げた。こうしてホヲリノ命は、三年になるまでワタツミノ神の国にご滞在になった。

 しかし、ホヲリノ命はその初めのことを思いだされて大きなため息をつかれた。トヨタマビメノ命がそれを聞かれて、その父に「三年住まわれて、いつもはため息などつかれないのに、今夜は大きくため息されました。もしや何か訳があるのでは」と申し上げた。父であるワタツミノ大神はそのムコに「今朝、私の娘が言うには『三年お住みになって、いつもは嘆息されることもないのに、今夜大きなため息をされた』と言っていました。何か訳があるのでしょうか、またあなたがこの国に来られたわけは何でしょうか」と尋ねられた。そこでホヲリノ命は、ワタツミノ大神に詳しく、その兄が、失った釣針を返せと責めたてた様子を語り告げられた。

 これを聞いてワタツミノ大神は、海の大小の魚を呼び集めて、「もしやこの釣針を取った魚はいないか」と尋ねられた。すると諸々の魚たちが「近頃赤い鯛が、喉に骨が刺さって物を食べられないと悩みを言っています。きっと彼が取ったのでしょう」と申し上げた。そこで赤鯛の喉を探ったところ釣針があった。すぐに取り出して洗い清めてホヲリノ命に差し上げた時に、ワタツミノ大神が教えて言うには、「この釣針を兄に渡される時に言う言葉は『この釣針は憂鬱になる釣針、いらいらする釣針、貧しくなる釣針、愚かになる釣針』と唱えて、手を後ろに廻してお渡しなさい。

 そしてその兄が高い所に田を作ったら、あなたは低い所に田をお作りなさい。また兄が低い所に田を作ったら、あなたは高い所に田をお作りなさい。そのようにされたら、私は水を支配していますから、兄は三年間必ず貧窮するでしょう。もしそれを恨んで攻め戦いを挑んでくれば、潮満珠を出して溺れさせ、もし兄が苦しみ許しを請えば、潮乾珠を出して助け、こうして悩み苦しめなさい」と言って、潮満珠と潮乾珠の二つを授けて、ただちにすべての鰐魚どもを召集して、「今、アマツヒコの御子のソラツヒコが上の国へ行こうとされている。誰か、何日でお送りして帰ってこれるか」と尋ねた。そこでそれぞれが自分の身長によって日数を申し上げる中に、一尋の丈の鰐魚が「私は一日で送って帰ってきます」と申し上げた。

 そこでその一尋の鰐魚に、「それではお前がお送りせよ。海中を渡るとき、決して恐ろしい目にあわせてはならぬぞ」と告げられて、その鰐魚の頸に載せて送り出し申した。そして約束通り一日でお送り申し上げた。その鰐魚を帰らせる時、身に着けていた紐小刀を解いて、鰐魚の頸に着けてお帰えしになった。そこで、その一尋の鰐魚は、今も佐比持神(さひもちのかみ[さひは刀剣のこと])と言う。
 
 こういうわけで、ワタツミノ神に教えられた通り、その釣針をお渡しになった。それで、その後ホデリノ命は徐々に貧しくなり、その上荒々しくなって攻めて来た。攻めようとする時は潮満珠を出して溺れさせ、困って許しを請えば、潮乾珠を出して救い、このようにホデリノ命を悩ませ苦しめられていると、頭を下げて言うには「私は今から以後は、あなた様の昼夜の守護人となってお仕え申し上げます」と申し上げた。それで今日に至るまで、隼人は、その溺れたときの種々のしぐさを絶えることなく演じて宮廷にお仕え申しているのである。
終わり
posted by 小楠 at 09:23| Comment(4) | TrackBack(1) | 古事記で見る日本
この記事へのコメント
拙記事をご紹介くださりありがとうございます。
多くの方に神話を楽しんでいただきたいですね。

「海彦・山彦」は、子供の頃一番好きな神話でした。同級生に「彦」のつく名前の子が何人かいたので、何となく身近な話に思えたのです。
しかし、お兄さん意地悪すぎ。『楽しい古事記』には、これには天智天皇と天武天皇の関係が反映されているのでは?と書かれていました。
Posted by milesta at 2007年02月11日 11:50
milesta 様
>>天智天皇と天武天皇の関係

なるほど一理あるように思えますね。
私も海彦山彦は、子供の頃に親からよく聞かされましたので、久しぶりにその頃を思い出しながら書いていました。
神様が人間のように生き生きと描かれているところが、なんとも言えず身近に感じられますね。
Posted by 小楠 at 2007年02月11日 15:52
小楠さん ご無沙汰しております。
昨日、念願の地元、石川県の生神神社に行ってきました。
早速 私のとこでレポしましたのでよかったらご覧ください。

やはり聖地でした
うっそうとして森の中にある小さなお社でしたが なんとなくオーラを感じました 感動です。
Posted by すだち at 2007年05月01日 10:13
すだち様
ご無沙汰でした。
ご連絡有難うございました。早速拝見。
富来の世界一長いベンチのページから順に、見せて頂きました。以前に門前で仕事が続いた時にはよくこの道を通りました。肉の風舎など思い出したりして。
生神神社は豊玉姫だけでなく前田家にも深い縁があったのですねー。
由来の書いた板は見当たりませんが、すだち様の解説をそのまま掲示しても、夢があっていいのではないですか。
久しぶりの風景でした、有難うございます。
Posted by 小楠 at 2007年05月01日 11:10
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小倉百人一首一番 天智天皇
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Weblog: 筆ペンでなぞる百人一首
Tracked: 2007-03-18 23:43