2006年12月08日

尾崎秀実の南方誘導

尾崎の支那事変長期化活動

 コミンテルンのスパイ尾崎秀実は、近衛の「蒋介石を相手にせず」声明に我が意を得て、猛烈に言論活動を開始します。これに対立するのが、外務省東亜局長の石射猪太郎で、新任の宇垣一成外相に意見書を出し、宇垣もこの方針で和平を進めようとしましたが、結局辞任してしまいます。
 尾崎と石射の違いをそれぞれの論文から見てみましょう。
鈴木正男著「支那事変は日本の侵略戦争ではない」から引用してみます。写真は尾崎秀実
ozaki.jpg

引用開始
 さて、尾崎は昭和十二年十二月、朝日新聞特派記者として上海でも活躍し、三月帰国した。この間にトラウトマン和平工作は失敗し、一月十六日、蒋介石を対手とせずとの声明が出ていた。

 尾崎は自分の欲するままに時局は進んでいるとほくそ笑み、この上に立って猛烈な言論活動を開始した。支那事変を長期化する活動である。申すまでもなく尾崎は朝日の一流の支那事変担当記者であり、近衛首相の政策ブレーン昭和研究会の支那問題担当のキャップであり、当時のマスメディアの寵児であった彼は、縦横無尽にその健筆を揮った。次はその一端である。

「我々は事変の初期に於ては、この事件の持つ重大性を予知して、両国のために速なる解決と和平の手段を発見すべきことをひそかに希うたのであるが、その後事件が現在の如き決定的な、完全なる規模に展開を見た以上、もはや中途半端な解決法というものが断じて許されないのであって、唯一の道は支那に勝つという以外には無いのである。面をふることなき全精力的な支那との闘争、これ以外に血路は断じてないのである。
 同じく東洋民族の立場から、又人道的な立場から支那との提携が絶対に必要だとする主張は正しいかもしれない。しかしながら現在の瞬間に於てこれを考え、これを説くことは意味をなさないのである。敵対勢力として立ち向かうものの存在する限り、これを完全に打倒し了せて後、初めてかかる方式を考うべきであろう」

 「今後日本の進むべき道は結局勝つためにまっしぐらに進む以外はないであろう。戦に勝つ上に於いて日本が絶対に自信を持つところは、その軍事行動をすすめるということだけである。軍事行動そのものの遂行が幾多重大なる国民的負担の犠牲を要するとか、軍事行動の遂行には相当の時間を要するとか、軍事行動によってもたらされる成功には限度があるとか、種々の条件がともなうことは確かであるが、ともかくも、軍事的成果がかなりの政治的効果を生むべきことは確かであり、かつこの軍事的力量だけは絶対に支那に優越するという意味に於て結局この軍事的行動が極限まで推し進められ、これの結果が政治的効果に変わることに期待がかけられることになるのであろう。
 中支政権の経済的地盤を培養するために山東を列ねて陸続きに北支と結ぶことが考えられているが、上海の経済的基礎が長江の水運にある点から見ても漢口への進軍が次の段取りとして具体的考慮の対象となることも考えられるのである。漢口を失うことはまた軍事的にも政治的にも支那にとって大打撃でなければなるまい。
 厦門島に対する海軍陸戦隊の占領は既に実行せられ、秩序は早くも回復されている。これは我が台湾と密接なる関係にある福建に対して新に確乎たる足場を築いたものである。
 現在我が航空隊の支那の都市に対する爆撃と、沿線封鎖ならびに重要島嶼の占領とは支那の経済的活動を極度に制限しあるのである。
 また、今度、たとえば末次内相の主張すねが如き即戦即要求に応ずるために、現在抗戦支那の経済的動脈たる粤漢遮断の行動と関連して、広東攻略が行われることも、ありうるところである」(著作集第二巻「長期戦下の諸問題」−昭和十三年五月)
・・・略・・・

 新大臣を迎えて前記の石射東亜局長は七月一日「今後事変に付ての考察」と題する長文の意見書を宇垣の手元に提出した。それは従来の行きがかりにとらわれず蒋介石を対手として漢口攻略前に和平を達成しなければならぬというもので、その要旨は次の如くであった。

 「国民政府を打ち滅ぼし蒋介石を打ち倒したる暁、その後に来るべき政権は何人をもってしても半身不随の弱体政権たるをまぬがれざるべく、国内の統制を把握しえざる結果、支那全体が政治的に経済的に破産状態に陥り、国内に惹起せらるる混乱無秩序はその極に達し、その間もっとも撹乱に成功するものは組織とイデオロギーを持つところの共産党なるや必せり
 この場合においてわが国は破産管理人の役を引き受け、敗残兵の討伐、地方の靖綏、宣撫、建設、民生の立直しまでやらねばならぬほか、当面の敵として支那共産党を討つを余儀なくせられ、しかして共産党の背後にソ連があるを思うとき、これが平定には長年月と莫大なる犠牲を払わされ、日支提携による東亜の安定はおろか、経済開発等も実現困難に陥るべし、ゆえに日支両国の間にこの時艱を救って大局を定むるは、従来の行懸りにとらわれず、国内統制力をなお保持する国民政府を利用してともに大事を談ずるほか、打つべき妙手なしとの結論に達す、しかしてこの手を打つべき時期は漢口攻略に先立つを要す。何となれば漢口攻略後は情勢に引きずられてふたたび長期抗戦の新たなる段階に踏み込むの恐れ大なればなり」

 宇垣外相はこの意見書の冒頭に、「その所説おおむね本大臣の所見に合致す」と注記した。宇垣はこの方針のもとに国民政府行政院長孔祥煕を対手に交渉を進めた。そして孔祥煕の来日には閣議に諒承され、孔を団長とする交渉団が軍艦で来ることも板垣陸相、米内海相も賛成し、陛下にも上奏し御内諾を得た。・・・・
 しかし、この間に近衛は宇垣との約束を三つも破っていた。その一つは別ルートからする和平交渉である。これは汪兆銘工作であった。・・・・
引用終わり

 日本の中枢には尾崎、ゾルゲの共産スパイ、国民党内には国共合作による共産軍、そしてアメリカにもホワイトやカリーのような共産スパイの暗躍があったことは事実です。結局はこの後もスターリンと中国共産党の思惑通りに進んで行ったということでしょう。
posted by 小楠 at 07:16| Comment(6) | TrackBack(0) | 書棚の中の日中関係
この記事へのコメント
あの時代を知る為のキーマンとして尾崎秀実ははずせないですね。
ただ、尾崎秀実について書かれた本があまりないようで、私もまだ断片的なことしかわからないんです。
尾崎秀実について、何かお薦めの本やサイトをご存知でしたら、よろしければ教えていただけませんでしょうか?
(あと、蒋介石についても・・・)
Posted by j.seagull at 2006年12月08日 09:28
j.seagull 様
私が持っているもので言えば、
三田村武夫著「大東亜戦争とスターリンの謀略」(これは以前「戦争と共産主義」という題で出ていたものですが、今は改題されています)の中に尾崎についての著述など結構詳しく出ていたと思います。
蒋介石については、「蒋介石秘録」上下を持っていますが、やはり国民党側からの見方なのは仕方ないとして、対共産、米国などは参考になりました。
Posted by 小楠 at 2006年12月08日 10:00
ありがとうございます。
「大東亜戦争とスターリンの謀略」と言う本があることは知っていましたが、やはりこれが一番ですか。
尾崎秀実やゾルゲについては、キチンと研究した本がもっとたくさんあっても良いのに、と思います。
だから、今でもスパイ防止法が制定できずに反日勢力にやられ放題なんですよね・・・。

「蒋介石秘録」は調べたら1976年に15冊ものシリーズで出版されていたんですね。
小楠さんが持っていらっしゃる(上・下)はそのダイジェスト版なのかな?
国民党側からの見方というのも興味を惹かれるところです。

蒋介石については、直接面会した人達の高い評価と、国民党軍の所行とのギャップが大きすぎてなかなかイメージがつかめないでいます。
「蒋介石秘録」は今は新品では入手できないようなので図書館か中古で入手して読んでみようと思います。
Posted by j.seagull at 2006年12月09日 03:23
>尾崎秀実やゾルゲについては、
>キチンと研究した本がもっと
>たくさんあっても良いのに、
>と思います。

「スパイとしてどのようなことをしようとしていたのか」ということを知る事は不可能に近いので(というかそんなに簡単に分かったらそいつは5流のスパイ)、一級の研究家によって動かしがたい証拠などが発見でもされない限りは迂闊に深入りしないのが賢明かと。状況証拠のみで検証しようとすると、結局は陰謀論にたどり着いてしまいますので。
Posted by 薔薇帯 at 2006年12月09日 06:53
 はじめまして、尾崎秀実に関する第一次資料としては、現代史資料ゾルゲ事件全四巻と尾崎秀実著作集全五巻があります。

 いずれも絶版になっていますが、尾崎秀実著作集に収録されている尾崎の戦時論文の全てと尾崎の尋問調書を分析すれば、尾崎、ゾルゲ、スターリンの謀略構想は、ほぼ把握できます。

 また近衛文麿の側近であった矢部貞治の日記にも尾崎秀実ら近衛近辺の共産主義者の活動が記述されており、すでに有力な証拠資料は発掘されています。

Posted by 東亜連盟戦史研究所所長 at 2006年12月10日 18:24
東亜連盟戦史研究所所長様
>>いずれも絶版になっていますが

これが残念ですね、しかし東亜連盟様のページでは大変詳しく書かれていますね。
よくあれだけ調べられたものと感心しております。
Posted by 小楠 at 2006年12月10日 21:11
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