2006年11月02日

プーチンKGBの再来

 今回も、先日殺害されたと報道のあったロシア人ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤ著の「プーチニズム」からご紹介します。
 この本の最終章になっている、プーチン再選の一部を紹介してみます。

引用開始
 私はなぜこれほどまでにプーチンに引っかかってしまったのだろう。プーチンについて本を書くほど彼のどこが気に入らないのか。私は彼の政敵でも宿敵でもない。ロシアに暮らすただの一女性だ。四十五歳になるモスクワ市民で、1970年代から80年代、旧ソ連の目を覆うばかりの共産主義体制の腐敗、凋落ぶりを見てきている。またあの時代に戻りたいとは露ほども思っていない。

 2004年5月6日、私はこの本の最終章を書こうとしている。明日ですべてが終わる。何の奇跡も起きなかった。3月14日に大統領選が行われたが、その結果に対して目立った異議申し立ては出ていない。野党はおとなしく引き下がった。したがって、明日はプーチンの二期目の始まりだ。
・・・略・・・

 プーチンはソビエトKGB中佐の典型だ。・・・・その彼があと数時間でロシアの玉座にふたたび上がる。
 彼の世界観は彼の階級に見合って偏狭だ。いかにも最後まで大佐にはなれなかった中佐らしい、好感の持てない個性の持ち主なのだ。たえず仲間を詮索するソビエト秘密警察の根性が骨の髄まで染み付いている。しかも執念深い。野党は一人も宣誓式に呼ばれなかった。ほんのわずかでも彼の機嫌を損ねたことのある政党も同様だ。
・・・略・・・

 ここで話は少々横道に逸れる。プーチンというより、私たちロシア国民の話をしよう。
 プーチンには支持者や後援者がいる。彼を二期目の大統領に祭り上げることで利益を得んとする者、大統領府に現在群がっている者たちだ。
 今この国を支配しているのはこの人たちだ
 大統領の決定を実行する政府でもなければ、彼が望む法律を闇雲に通過させる議会でもない。彼の配下は社会の反応を注意深く見守っている。彼らが国民など気にしないと思うのは見当違いだ。
 今起こっていることに対しての責任は私たち国民にある。まず私たちにであって、プーチンにではない。彼や彼のシニカルなロシア統治に対する私たちの反応はせいぜい台所の噂話に留まっている。そのために彼はこの四年間やりたい放題だった。社会のあきらめムード、これは底なしだ。これがプーチン再選の免罪符なのだ。
 私たちは彼の行動や発言に無気力な反応を見せたばかりではない。びくびくと怯えた。チェーカーが権力を握るにつれ、私たちはやつらに恐怖心を見せてしまった。そこでやつらはますます図に乗り、私たちを家畜のごとく扱う。KGBは強い者だけを認める。弱い者は食い殺す。私たちがそのことを一番よく知っているはずではないか。
・・・略・・・

 どうして私はこれほどプーチンが嫌いになったのか?それは年月が過ぎているからだ。プーチンが初めて大統領になるために始められた第二次チェチェン戦争はこの夏で五年になる。それなのに戦争はいまだに終わる気配がない。
 戦争が始まったとき、のちにシャヒードと宣言されることになる子供たちはまだ生を受けてもいなかった。しかし1999年以降、爆撃や掃討で命を落とした子供たちの殺人事件は未解決のままであり、法と秩序を司る機関による捜査も行われていない。嬰児殺しの犯人たちは本来立つべき被告人席に立たされていない。
 あの「すべての子供たちの親友」のプーチンは犯人たちを被告席に立たせたことは一度もない。軍部は開戦直後に許されたとおりチェチェンを跳梁跋扈している。まるで、彼らの作戦はまったく子供も大人もいない、無人の訓練場で行われているかのように。

 この罪なき人びとの虐殺はロシアでは問題にならなかった。チェチェンで虐殺された五人の子供の姿を放映したテレビ局はひとつもなかった。イワノフ国防相はただちに辞表を出しもしなかった。彼はプーチンの親しい友人であり、2008年の後継者と目されているくらいだ。空軍の司令官も首にはならなかった。総司令官も一度に家族をなくしてしまった父親に悔やみを述べなかった。
・・・略・・・

 どうして私はこれほどプーチンが嫌いになったのか?はっきり言おう。それは重罪より性質の悪い単純さ、シニシズム、人種差別、嘘、果てしない戦争、「ノルド・オスト」劇場占拠事件で使ったガス、彼の一期目をとおして続いた罪のない人びとの虐殺のためだ。なくてもすんだはずの多くの死体のせいだ。

 これが私の考えだ。ほかの人には違う考えがある。子供たちの殺害も、プーチンの任期を十年に延ばそうとする人びとの努力にブレーキをかけることはなかった。
 任期延長の試みはクレムリンからの指示によって、新たな親プーチン青年運動を起すことで進められている。
 プーチンの大統領府副長官はウラジスラフ・スルコフという人物で、ロシアでは古参の広報官として知られる。彼は純然たる欺瞞でできたクモの巣を張る。
 真実の代わりに虚偽を広め、行動の代わりに言辞を弄する。現在はクレムリンの指示の下、似非政治運動が花盛りだ。わが国が一党独裁の国であり、多様性に欠け、独裁制に戻ろうとしていると西側に感づかせてはならない。
 
 突然いろいろな名のグループが現れる。「共に歩む」「共に歌う」「安定のために」そのほかにも旧ソ連時代のピオネール(共産少年団)の現代版のようなグループ群。これらの親プーチン似非政治運動には際立った特徴がある。途方もない速さで司法省に合法的に登録されることだ。
 通常、登録についてまわるお役所仕事にありがちな遅延がない。司法省というところは少しでも政治的なものを認めることには普段は積極的ではない。さらにこれらの新たな政治運動グループは最初の公的な活動として、親愛なる大統領の任期延長を訴えている。
 プーチンは5月7日の宣誓式までにこうしたプレゼントを与えられた。
・・・略・・・

 これが2004年5月7日の宣誓式をめぐる状況だ。プーチンは偶然のいたずらで絶大な権力を持つに到ったが、それを濫用してロシアにとって破滅的となる結果をもたらすのだ。
 私がプーチンを嫌いなのは、彼が人びとを嫌っているからだ。彼は私たちを蔑んでいる。私たちは彼の目的のための手段、偉業を成し遂げて権力を維持するための手段であり、それ以外の何ものでもない。だから私たちをどう扱おうと、どう弄ぼうと、必要とあらば破滅に追いやろうと勝手だと思っている。彼にとって私たちは人間ではないが、偶然の成り行きでヒエラルキーの頂点に上り詰めた彼自身は、今日、皇帝であり神様なのだ。

 ロシアには、これまでにもこうした指導者が何人もいた。それは悲劇を生み、大量の犠牲者を出し、内戦につながった。私はそんなことは望まない、だからロシアの玉座へと向ってクレムリンの赤絨毯を闊歩する典型的なソビエトのチェキストが嫌いになったのだ。
引用終わり。

 彼女は、ロシアが再び秘密警察社会になろうとしていることを大変憂慮していました。
 ソ連時代、私は、共産主義は地球にできた癌だと思っていました。周囲にもある程度転移しましたが、自由という特効薬が、その転移をある程度抑制し、ロシアは一時治癒しかけましたが、癌を根こそぎ切除しなかったためにまた再発してきたのでしょう。
posted by 小楠 at 07:35| Comment(5) | TrackBack(0) | 共産主義の実態
この記事へのコメント
なぜかロシア・モンゴル・支那あたりのあの場所は赤化しますね。でかすぎる不毛之地はそうなる運命なのかとあきらめています(笑)。まさに地球にできた癌です、病根発生源です。地球が反転しない限り根治は無理でしょうね。赤の恐ろしさを知らない学ぼうともしない能天気な日本を眺めていると恐ろしくて寒気がします。日本の企業なんて赤子みたいなもんで連日良いカモにされています(貴Blog 3日付け)。赤癌細胞に精力を与えていることさえ気がつかないで。これはもう犯罪ですよね。
Posted by ケイさん語録 at 2006年11月03日 12:41
>彼女は、ロシアが再び秘密警察社会になろうとしていることを大変憂慮していました。

どうやら、彼女の憂慮は、現実のものとなりそうな可能性が高いですね。

>ロシアは一時治癒しかけましたが、癌を根こそぎ切除しなかったためにまた再発してきたのでしょう。

その通りだと思います。
Posted by おしょう at 2006年11月04日 23:37
おしょう様
>>彼女の憂慮は、現実のものとなりそうな

どうも人治主義が復活しているように見えますね。
Posted by 小楠 at 2006年11月05日 09:58
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/kiji.php3?&d=20061119&j=0026&k=200611197038&ref=rs

今度はアンナ・ポリトコフスカヤ氏の殺害に関連してロシア保安庁元幹部の毒殺未遂の可能性だそうです。「プーチンの独裁化」などとよく批判されているのを見ますが、強大な力が剥き出しで襲ってくるとすればコレは怖いですね。

Posted by 何某 at 2006年11月21日 09:26
何某様
>>ロシア保安庁元幹部の毒殺未遂

つい先日アンナ・ポリトコフスカヤさんの殺害が報道されたと思ったら、今度はそれに関連した亡命者が狙われたとは。どちらも共通点はプーチン批判。さすがに元KGBで見え見えのように思うのですが、どちらも犯人は挙がらないのでしょうか。
Posted by 小楠 at 2006年11月21日 10:46
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