2006年11月01日

ロシア軍兵士の悲惨

今回も、先日殺害されたと報道のあったロシア人ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤ著の「プーチニズム」からご紹介します。
 彼女は2004年、北オセチアの学校占拠事件の際、現地へ向う機上で、毒を盛られ一時重態になったこともありました。

『はじめに』を見れば、この本が取り上げようとしている問題が明確に分かります。そこに書かれているのは、
「この本はウラジミール・プーチンの話だ。しかし、ここで語られるのは西側で一般に知られているプーチンではない。バラ色の眼鏡を通さずに見た素顔のプーチンだ。
 ロシアの現状を目の当たりにすると、西側の人のように好意的にプーチンを評価できなくなるのはなぜだろう。それはプーチンが、この国でももっとも嫌悪すべき旧ソ連の秘密警察、KGB(国家保安委員会)出身の者として、大統領に選ばれた後にも、その素性を忘れないし、この特務機関の中佐然とした振る舞いをやめもせず、やたらに自由を求める同胞の弾圧にいまだに血道を上げ、相も変わらず自由を蹂躙しつづけているからだ。

 本書はまた、ロシア国民のすべてがプーチンのやり方を黙って見過ごすわけではないことを示すものだ。たとえ、それが西側にとって都合が良いのだとしても、私たちはもう奴隷でいることには我慢できない。私たちは自由を要求する・・・・」。
 ということです。我々日本人には今時自由とか自分たちを奴隷などとは思いもしませんが、やっと共産主義の悪夢から覚めたと思っていたロシア国民が、未だにその後遺症に苛まれているということが事実であることを、この本が教えてくれます。

引用開始
※兵士の売り買い
 貧しい家庭の子弟は士官学校に入学を希望するものだが、彼らの目的は高等教育修了の資格を得ることにある。軍隊には入らない。大統領府が声高らかに次々と発表する報告書によると、軍の教育機関の入学試験は競争率が上がっているという。これはたしかに事実だ。しかし、この傾向は軍の威光が増したためというよりは、教育を受ける側の貧しさによるところが大きい。
 軍隊に下級将校が非常に少ないのも同じ理由で説明がつく。陸軍・海軍大学を卒業しても、下級将校はどうしたわけか配属された駐屯地に姿を見せない。突然重病になり、様々な予期せぬ障害に見舞われた旨の証明書を送りつけてくる。ロシアのように腐敗しきった国では、このような抜け道を用意するのも大して難しいことではない。
・・・略・・・

 第五十八軍はロシアでは悪名高く、堕落した軍隊と同義語にすらなっている。もちろん、軍隊の堕落はプーチンが登場する前から始まってはいた。しかし、彼にも重大な責任がある。
 第一に将校たちの放縦を黙認した責任、第二に彼らを実質的に法の埒外に置いた責任だ。将校たちはどのような重罪を犯そうとも、事実上起訴されなくなっている。

 さらに第五十八軍はウラジーミル・シャマーノフ将軍率いる軍隊だった。二度にわたるチェチェン戦争で勇名を馳せたシャマーノフ将軍は、民間人に対するきわめて残酷な振舞いでも広くその名を知られていた。・・・・・
 彼は毎日のように、「チェチェン人はみな悪者」であり、殲滅されるべきだと国民に語りかけた。プーチンが全面的に彼の肩を持ったのは言うまでもない。・・・・

 将軍同様、この部隊の将校は、チェチェン人や自軍の兵士、下級将校に対するきわめて残酷な振舞いで悪名をとどろかせていた。ロストフ州のロストフ・ナ・ドヌーには、第五十八軍が属する北コーカサス軍管区総司令部がある。ロストフの「ロシア兵の母委員会」には大量のファイルが保存されているが、大半は第五十八軍の将校による暴行に耐えかねた兵卒の脱走に関するものだ。この部隊はまた、倉庫からの物資の窃盗や部隊ぐるみの反逆で有名である。自軍の倉庫から武器を盗み出し、チェチェン武装勢力の野戦司令官に売り渡している。
・・・略・・・

 ドミートリーの上官アレクサンドル・ボロネンコフ中佐は実入りの良い副業を持っていた。今日のロシア軍では何も珍しい話ではない。報酬が少なければ、人間というものはあらんかぎりの悪知恵を働かせるものだ。しかし、この中佐に到っては、あろうことか兵士を売り買いしていた

 イストラは別荘地だったため、ボロネンコフは近隣に住む別荘の主に配下の兵士を格安の労働力として提供した。兵士は食事を与えられるだけで、稼いだ金は上官の懐に入った。こんな儲け話も何ら目新しいものではない。というより、むしろ広く行われている。
 兵士たちは無償の労働力、つまり奴隷として売られ、軍務期間中ずっと金持ちのために働かされる。また、将校たちはその人物とのコネが役に立つと思われる相手にこうした無償の労働力を提供する。たとえば、車の修理が必要なのにその費用がないなら、兵士を数人集めて自動車修理工場へ出向けばいい。兵士は工場で必要な期間ただ働きし、将校は車を修理してもらうといった寸法だ。

 2002年6月下旬、とうとうドミートリー・キセリョフが奴隷として売られる番が回ってきた。ドミートリーはカラブトフという人物の家を建てることになった。・・・・ドミートリーは最初は家を受け持っていたが、やがて他の兵卒七人と一緒に敷地の周りに深い溝を掘るよう命ぜられた。七月二日午後七時、溝の両側がくずれ落ち、ドミートリーをはじめとする三人が生き埋めになり、窒息死した。ドミートリーの両親は上官のボロネンコフ中佐を訴えようとしたが、中佐はうまく切り抜けた。必要なコネをたくさん持っていたのだ。ドミートリーはキセリョフ家のひとり息子だった。

 駐屯地の検事局によって調査が行われた。もちろんこの事件を担当した検察官も実質的に、この事件が起きた部隊の司令官の指揮下にある。検事局は将校たちを無罪とした。
 兵士を安い労働力として違法に売るあるいは貸すことは、通常、彼らの直接の上司である下級将校によって行われる。主に農業や建設の仕事に従事させられることが多い。こうしたことはロシアでは広く行われている。報酬は取引を取り持った礼として将校に支払われるのが普通だ。・・・・
引用終わり。

 これは一昔前のことではありません、こんなことが今現在行われているのがロシアという国です。
 こんなことが今の時代に許されていること自体が不思議なほどです。結局ごく一部の人間が強大な権力を持つロシアは、長く共産主義に慣らされた結果、恐怖心が未だに抜けきれていないのでしょう。
posted by 小楠 at 07:30| Comment(4) | TrackBack(1) | 共産主義の実態
この記事へのコメント
北方領土4島問題を抱えるに対露日本外交ですが、ロシアの本性をこのプーチン大統領に置き換えて考えるべきですね。
Posted by カピタン at 2006年11月01日 10:07
カピタン様
>>ロシアの本性をこのプーチン大統領に置き換えて

これこそ歴史を直視して、相手に応じた外交がひつようですね。
何でもかんでも日本人の価値観で判断できないことを知るべきですね。
Posted by 小楠 at 2006年11月01日 17:34
このアンナ・ポリトコフスカヤさんという女性は、自分の尊い命を犠牲にして、このような本を遺したのですね…。
涙が浮かんできますなぁ。
共産主義に毒された国家は、それが崩壊した後も、簡単には「悪魔」の呪縛から解かれないのでしょうか。
東欧諸国は違う、という意見もあるでしょうが、それらは、旧ソ連に無理やり従わされていたわけですから、例外だと思います。
マルクスとは、本当に罪作りな思想家です。
Posted by おしょう at 2006年11月04日 23:29
おしょう様
>>自分の尊い命を犠牲にして

今回の殺害で、またまた国民を恐怖に陥れて、自由な言論が封鎖されますね。
Posted by 小楠 at 2006年11月05日 09:56
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