2008年05月28日

藤原岩市著・F機関

先ずは序文から

 ご存知の方には興味深い本ではないでしょうか。インド独立とは切っても切れない人物・藤原機関のご本人(明治四十一年生れ)の著です。
 表題は「F機関」副題として「インド独立に賭けた大本営参謀の記録」となっています。昭和六十(1985)年初版の本から抜粋してご紹介します。
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引用開始
 私は、陸軍少佐に昇進した直後の、昭和十六年九月、若冠三十三歳の凡根の身に、参謀総長松山元大将の特命を拝し、大東亜戦争勃発に備えるため、東南亜のマレイ・北スマトラ民族工作の任を帯び、バンコックに派遣された。この工作をマレイ工作と呼称された。与えられた部下は若い尉官五名・下士官一名。軍属五名の貧弱な陣容であった。もっとも私が、現地で志願を申し出た邦人を然るべく加えて、漸く三十名に増勢した。
 私共は、開戦直前、南方軍司令部に所属換えされた上、マレイ、シンガポール作戦を担当する第二十五軍に派遣され、山下泰文軍司令官の区拠下に、同域各種民族工作に当ることとなった。同軍の作戦に寄与するためであった。しかし緒戦からの僥倖的成果を買われて、ビルマと北スマトラにも工作を拡大する任を追加され、工作担任域は東南亜の大部に拡がった。私は更に印度本土への伸長を画策した。

 私はインド独立連盟書記長の助言を得て、私の機関をF機関と命名した。フリーダム、フレンドシップと、藤原の頭文字を採ったものである。これは私が信念する日本思想戦の真骨頂は、建国の皇謨八紘為宇の大理想に基き、白人のアジア隷属支配を断わって「アジア人のアジア」「大東亜の共栄圏」を建設して「アジア人の心を一つに結ぶ」心願を表明するものであった。私は機関の信条を、陛下の大御心――四海同胞一如の御軫念を奉じ、敵味方を超越する至誠、信念、情義、情熱のヒューマニズムに徹し、道義の戦いを捨身窮行することを部下と誓い合った。
 私は日本軍の作戦を利する近視眼的謀略工作を戒めた。皇道に謀略なし、誠心あるのみを部下に強調した。インドを初め、東南亜諸民族の民族的悲願に発する彼等の自主自発的決起を促し、苟も日本側の恣意を強制することを厳に戒めた。かくてこそ、わが作戦に、占領地施策に真に寄与する成果を期待し得、大東亜戦争の大義名分に添い得ると確信したからである。
 私のこの使命遂行には、数々の困難と苦渋を伴ったが、反面幾多の神の恩寵と僥倖に恵まれて予期せぬ成功を収め、Fの名は東南亜戦域を風靡するまでになった。この成功には作戦軍の精強と厳正な軍紀に裏打ちされたところが大きかった。

 私はこの使命遂行が法縁となり、戦中戦後の終始、東南亜なかんずく、インド、パキスタン、ネパール、マレイ、シンガポール、北スマトラに多数の志友、知己を得,彼等と生死、辛酸を偕にする宿命を負うこととなった。これ等の諸民族は終戦後、その自由と独立の栄光を斗取振興し、日本との宿縁を深めることとなった。その余威は中東やアフリカ民族の解放に繋がり、数百年にわたる白人支配の世界史に決定的変革をもたらすこととなった。
 私は昭和二十二年六月、シンガポールの英獄から釈放帰国すると早々、F工作回想の執筆を初め、翌年六月脱稿し、匡底に蔵い込んだ。・・・
 この間、英、米、印、馬、星国(シンガポール)大学の史家や戦中結ばれた各国の知己・心友から、拙著日本語版の完訳英語版の出版要請が相次いだ。・・・・
 幸いに右の国々の史家、友人から当該国の新聞、雑誌等にそれぞれ書評が寄せられ,怨讐を超えた好評を得たことは幸せであった。この他米国コロラド大学教授ジョイス・レブラ博士は「ジャングルの盟約」と題し、又英国のルイス・アレン教授は「日本軍が銃を措いた日」、更にインドのゴッシ博士は「印度国民軍」と題し、それぞれ私を来訪して質疑を重ね、拙著を関係現地の人士について、精査取材し、F工作をアカデミックに紹介評価していただいた。
 三氏は共通して、F工作を貫く精神は武士道とヒューマニズムであったと結論された。

 印度国民軍創設の盟友モハンシン将軍はその回想録でF工作は工作ではなく高貴な伝導であったと述懐している。私は年々印度を初め、関係国を歴訪してきたが、未知の方々からもこれを称えられ、過分の光栄としている。
 それにしても、日本語版の原著が絶版となっていることは残念である。一昨年も一月から二月にかけて印度を歴訪した。・・・・戦後派の友人四君が同行することとなった。・・・
 同行の四君は、この歴訪間、心に、肌に、感銘するところが真に深刻だったようである。極東軍事裁判の判決を鵜呑みにした戦後日本の虚構の史観に対し、深く慨嘆を覚えたとの告白であった。
折柄国内でも漸く戦後史の見直し、教育の抜本的改革の叫びが高揚しつつある。世界はアジア、太平洋圏時代に移行し、次の世紀の初めには八十数億に膨張する世界人口の一半をアジアが占め、巨大なポテンシャルを持つことを指摘されつつある。これと関連して米ソを初め、列強の関心が当域に集まり、緊張が日増しつつある。日本はこのアジアの先達国、世界第二位の経済、科学技術の大国として、急迫する人類の危機に処し、アジア・太平洋圏の平和を守護するため、重大な責任を負わねばならぬ。単なる経済、軍事に止まらない,高次な精神と道義が重要である。その共鳴連帯を得てこそ魔性国家の暴走を抑止できる。
昭和五十九年十一月三日、
引用終わり
posted by 小楠 at 07:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 書棚の中の人物
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