2006年10月21日

中国市場の甘い罠

 続いてジェームズ・キング著『中国が世界をメチャクチャにする』の本文の一部を紹介して見ます。
 英国人ジェームズ・キング氏は、2005年まで英国の日刊紙『フィナンシャル・タイムズ』の北京市局長でした。

引用開始
※伝説の「10億人市場」の甘い罠
 ・・・・非凡な創業者である尹明善の偉業について、聞けば聞くほど、ケーススタディのように思えてきた。中国のメーカーはよく海外の競争相手の三分の一か、40パーセントか、もっと安くした価格を実現しているが、それはどうやっているのか。
・・・・・(自転車の)次に流行するとしたらオートバイだろう。日本で工業が飛躍しだした黎明期にそうだったように。1992年に本の倉庫を売却して得た一万五千ドルで<重慶轟達(ホンダ)(Hongda)車両部品研究所>を設立した。社員は妻と息子を含めて八人だった。

 社名の「Hongda」という言葉はスペルミスではなかった。意思の表明だった。尹は世界一の企業をめざしたのだ。<ホンダ>や<ヤマハ>といった日本の大企業を中国市場から追いはらうことで、その成功にあやかりたかった
・・・略・・・
<ホンダ>も<ヤマハ>も中国で売れに売れて、評判とステータスを得ていた。尹はこれしかないと思った道を選んだ。デザインをまねし、技術を盗んだのだ。

 このころ、<ヤマハ>と<建設工業>がライセンス契約を結んでいたから、この日本製エンジンが地元で手に入るようになっていた。・・・・
 ライセンス契約の一環として、地元で開業された修理店には<ヤマハ>の交換部品と欠陥修理のノウハウがそろっていた。尹はその店に行って部品を買い、そこで働く修理工からヒントを仕入れた。分解し模倣しての数カ月で、<ヤマハ>のエンジンの複製品ができた
・・・略・・・
 だが現実には、日本人にできることは少なかった。政府からの制約で、<ヤマハ>や<三菱>や<ホンダ>は自社工場を勝手に建てられなかっ
た。
 政府の選んだ国有企業とジョイントベンチャーを設立しなければならず、巨大な潜在マーケットへの参入料として、パートナーに技術を移管しなければならないと命じられた。かてて加えて、自社マーケティングや納入業者のネットワークに対し、ゆるい管理しか認められなかった。

 しかし、十億の中国人が自転車をオートバイに乗り替える魅力は、懸念にまさったようだ。<ヤマハ>は首までどっぷりつかった。<建設工業>と条件が五分五分のジョイントベンチャーを設立した。
・・・略・・・
 工場はテクノロジーの秘密をざるのように漏らした。慎重で忠実であるべき部品の下請け業者は、あいにく裏で偽造業者へどんどん部品を売っぱらっていた。<ヤマハ>はこの問題がいかに深刻かをしっかり把握しきれないままに、1995年、何年もの準備期間を経て、同社の最重要モデル、四サイクル100ccの「勁豹(ジンパオ)」を発売した。
 そこで恐ろしいことが明らかになった。発売から数カ月のうちに中国全土の36の工場で、そっくりの模造品が生産されたのだ。最悪だったのは、コピー製品がほとんど本物と変わらないのに、一台6000元程度で売られていたことだ。これに対し<建設ヤマハ>社は「勁豹」に18000元の値をつけていた。
・・・略・・・

 計画的な偽造もある。ハリウッドの超大作が編集されるたびに、アメリカでそのDVDが発売される前に、中国で同じものが出まわっている。これを実現するには、海賊版シンジケートが映画会社にスパイを潜入させ、中身を盗ませているはずだ。
・・・略・・・
 しかし多くの外国企業にとって問題なのは、低レベルの偽物よりも原物の品質を忠実に再現した偽造品である。
 オートバイはさておいて、自動車産業はこの種の乱用について出色のケーススタディを提供している。

 1990年代の後半に最大手の<フォルクスワーゲン(VW)>が人気車ジェッタを発売したときには、<奇瑞汽車>という会社はまだ存在してもいなかった。しかし揚子江に臨む市、蕪湖で新しい会社<奇瑞>がゼロから出発して33カ月で、その名も奇瑞という四ドア・セダンを最初の製品として発表した。
 奇瑞は当時中国で最も売れていた車、ジェッタにあまりに似すぎていた。疑惑の声はただちに上がった。それは<奇瑞>のおもな出資者<上海汽車工業集団総公司(SAIC)>が<VW>のジョイントベンチャーの提携先だったからでもあり、<奇瑞>の経営陣の一人が<VW>傘下の<アウディ中国>でジェッタ製造に携わったからでもあった。

 <VW>が調査を開始すると、原物の部品が<奇瑞>で見つかった。同社は、蕪湖市政府が所有するこの中国企業の幹部宛に書面と口頭で申し入れ、ついに<奇瑞>側は今後は原物の部品を使用しないことに同意した。
 だが、<奇瑞>の知的所有権問題はまだ終わっていなかった。これまた<SAIC>の業務提携先<ゼネラルモータース(GM)>が<奇瑞>を訴え、8000万ドルを請求している。<奇瑞>発売のコンパクトカーQQが、<GM大宇>製の人気車スパークにそっくりだというのだ。
 <奇瑞>はいっさい不正行為を認めず、訴訟は望むところだと公式に表明した。裁判は北京の法廷で開かれる予定だ。しかし原告、被告の双方が公判日を待つうちにも、価格が3600ドルのQQは売れに売れ、逆に、二倍の値段のスパークは旗色が悪い。
・・・略・・・
 1998年以降は、価格がとめどなく下落する兆候が、個別の製品にも、工業製品全般にも見られる。広範囲の経済が異常なまでに急成長していたし、消費者物価指数などの一般的な指標でもインフレが支配的だと判断されているのに、工業製品の平均価格は毎年下がってきた。
・・・略・・・
 1998には中国全土に1000を超える工場があり、ざっと1500万台のオートバイを生産していた。販売台数より500万も多い。売れ残ったバイクが倉庫にあふれ、価格競争が激化して、利ざやは消えてなくなった。だが、なおも巨大な潜在マーケットにこだわる大企業は戦略をかえようとしなかった。

 <建設ヤマハ>責任者の良学本はその年私に、市場のシェアを保つことに全力を注いでいる、と語った。中国人のたった3%しかオートバイを持っていない。いつか市場に火がつき、驚くべき利益がもたらされる。いま、わが社は国内の新興競合他社に先を譲るわけには行かないのだ、と。
 8年後、市場に期待されたブームは到来しておらず、供給過多の問題はかつてないほど深刻化していた。尹は幻滅していた。この業界からは価値という価値がはぎとられた。冗談半分にだが、周囲にこうもらしていた。 そのうち、バイクをキロ売りすることになるだろう、豚みたいに。「うちのいちばん安いモデルの工場渡し価格は、キロ当たり25元です。生きた豚より少し高いくらい」と補佐役の一人、楊州は、工場を再訪した私に言った。
引用終わり。

 オートバイに関して、中国10億人市場は、現実にはその3%でしかないことが読み取れます。著者は、3%に行き渡ったから爆発的に売れるのはこれからだとの目論見が見事にはずれた事例と、あっという間にコピー商品が出回り価格が破壊されるという危険性を紹介しています。
posted by 小楠 at 07:43| Comment(12) | TrackBack(4) | 書棚の中の中国
この記事へのコメント
パクリ癖もあるのですか。
どこかの国とそっくりですなぁ。
ただただ、呆れるばかりです。
はぁ〜。
Posted by おしょう at 2006年10月21日 20:34
おしょう様
>>パクリ癖もあるのですか

コピーや海賊版のスーパーマーケットでしょう。一流ブランドなども困ってましたね。
そっくりな粗悪品。その時売れればいいという感覚。信用を築いて積み上げていくような時間のかかることは、馬鹿げているとでも思っているかのようです。
Posted by 小楠 at 2006年10月22日 10:01
『習うより盗め』を文字通りをやってる国が支那です。この国で本物のブランド品を買うのはほとんど絶望的です(天に誓って言います)。グッチ・ウイスキー・ロレックス・DVD・CD・電脳Soft・玩具に始まり、日本の即席ラーメン・缶詰・お菓子・赤ちゃん粉ミルク・果物・日本専売公社のタバコまですべてそっくりの偽物がまかり通っています、ホントです。実体験しないととても実感が湧きませんがお札の偽物だって三割も出回ってるといわれています。そして偽物ですら買えない地方の乞食族は地場産業だけの業者が造ったそのまたコピー製品を買って暮らしています。こんな無法者どもと付き合うにはそれなりのやり方があるんですが日本人さんは解らないんですよね。相手を見て商いをすることが出来ない正直さんなんです。幸か不幸か。再び失礼いたします。
Posted by ケイさん語録 at 2006年10月22日 22:05
ケイ様
>>『習うより盗め』

なるほどねー、いい言葉ですね。

>>お札の偽物だって三割も出回ってる といわれています。

ええっ、中国にも偽札まであるんですか!
あれは北の専売かと思っていましたが、中国でも作っているんですか?
どうりで北に優しいはずだ。
Posted by 小楠 at 2006年10月23日 07:49
中国産の小型〜中型バイクやエンジンなどが今日本で沢山売られています。価格も国産のバイクの四分の一程度、ヤフーオークションなどで国内の販売店から多く出品されています。でも入札者が出ないのが現状です。それはアフターパーツが得られないのと、走行2年程度でエンジンが壊れてしまうの殆ど、バイク野郎達は中国産バイクには目もくれません。かく言うカピタンもバイク乗りの端くれ、ネット上では常識なのです。
Posted by カピタン at 2006年10月23日 18:26
カピタン様
>>走行2年程度でエンジンが壊れてしまう

やっぱりそうですか、皆さんよくご存知で、簡単には騙されないので安心です。
彼らには信用という観念がないのでしょうか?
Posted by 小楠 at 2006年10月23日 20:37
 始めてこちら書き込みをさせていただきましたサウザンドキルと申します。
中国市場の事態についてはもうご存知かも知れませんが、黄文雄氏の著作を見られるといいかと思います。
 氏によると、中国人の約束というのはその場限りのものでしかないそうです。駄文失礼しました〜^^
Posted by サウザンドキル at 2006年11月02日 13:28
サウザンドキル様
>>黄文雄氏の著作を見られるといいかと思います。

有難うございます。黄文雄氏の本もかなりあるのですが、経済面のものはなかったようで、また適当な本を探してみます。
何かお薦めがありましたら教えて下さい。
Posted by 小楠 at 2006年11月02日 15:14
すみません。きちんと本の紹介をしてませんでした;;
黄文雄氏の著作「中国が死んでも日本に勝てない7つの理由 」という本です。こちらには中国市場が抱える諸問題が分かりやすく書かれています。
もう一冊あるのですが、名前が思い出せず・・;;
Posted by サウザンドキル at 2006年11月04日 10:05
サウザンドキル様
有難うございます。
早速購入してみます。
Posted by 小楠 at 2006年11月05日 09:53
トラック・バック有難うございました。この記事も読ませていただいていたことを失念しておりました。黄文雄氏の著作「嫌中論」もTBさせてください。
Posted by おばりん at 2006年11月09日 17:39
おばりん様
コメントとTB有難うございます。
>>「嫌中論」

黄文雄氏も何冊かあるんですが、氏の中国批判は私たち以上に強烈ですよね。
Posted by 小楠 at 2006年11月09日 17:55
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