2008年01月29日

日米戦の準備進行中

深まりゆく日米の危機5

今回引用している書籍は、昭和七年三月に発行され、同年四月には五十八版を重ねた、海軍少将匝瑳胤次著「深まりゆく日米の危機」です。昭和七年頃までの米国の動きから、当時の日本と日本人が米国に対してどのような感情をもってどのような状勢判断をしていたかを知る資料になるものと思います。
写真はハワイ・ダッチハーバーを出港する太平洋艦隊
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引用開始
 卒直に言えば日米両海軍は、その相互的対象として米日海軍を目標に、拡張及び準備を進めているのである。一は防禦的に他は攻勢的に、こはいかなる遁辞や口実を以て誤魔化し去ろうとしても、最早抂くべからざる事実である。米国のカリビアン海政策の躍進と対中米政策の発展に伴うこれら小邦に対する武力干渉は、或は自由に大統領を交迭し、或は財政監督権を掌握し、或は港湾の租借、海関の管理等、その帝国主義的色彩の濃厚なるはまことに言語に絶したるありさまである。
 1927年クーリッジ大統領が『中米諸国に対し米国は他のいずれの諸国におけるよりも一層道義的責任を感ずるものである』としたのも、明らかにニカラグアをして第二のパナマたらしめんがための干渉政策を進むることを語っているのである。これがため右の諸邦は猛烈なるアンチ・アメリカ党を以て充満され、英国援引の傾向を見せているのであるが、さりとてこれが原因となって英米衝突の危機をはらむものとは思われないのである。・・・・

 フーバー大統領は七月二十二日ホワイトハウスにおいて、ロンドン条約の批准署名を行い後、左のごとく言明した。
『ロンドン条約は米国の完全なる国防を保護し、且世界の人心より我国が帝国主義的侵略を企図しつつあると云うがごとき観念を除き去るものと信ずる』
 これは果して何の意味を以てかかる言明を敢えてしたのであろう。問うに落ちず語るに落ちるとはかかることをいうのである。彼は完全なる英米均勢を確保し、絶対的権力を以て中米政策を強行し、カリビアン海政策を敢行し、兼て東洋進出の邪魔者たる日本海軍を低率に膠着して、太平洋上に経済的帝国主義を布延せんとすることを語ったのである。これは必ずしも一箇の独断ではない。上来叙述して来た米国の極東政策及び軍縮会議の経緯において累次所見を述べたところを総合すれば当然この結論に帰納せざるを得ないのである。
 そこで英米均勢の主張を二つに割って見れば、一方には世界第一絶対優勢、他の一方には日本制圧、攻撃作戦成就の文字が書かれているのである。
 米国上院におけるロンドン条約批准の論戦を見れば、あたかも日米の危機に瀕して和戦何れかを決定する最後の兵力量検討をやっているかのごとき観を呈しているのである。・・・・
 上院多数の穏健なる所論も同条約の保有量を以て西太平洋の攻勢作戦が可能なりや否やに結着しているのである。今一二の例を取上げて見よう。
 先ずお馴染みのリード氏は上院本会議の演説において『今回の条約が日英両国より米国にとり好都合に出来ている』ことを言明し潜水艦の日米均等に関しても『潜水艦は水上艦を戦闘目的とするものである、日米均等にしてもこれによりて日本の保有量を減じ、且つ条約中潜水艦の使用方法制限の規定もあるから、その攻撃機能を削減している』と述べている。・・・・


 ヤーネル提督は『日本が獲得した比率は恐れるに足らぬ。日本がもしフィリピンに対して向こう見ずな賭博をやるようなことがあっても、米国は十分これを防ぐことが出来る。又ロンドン条約によって決められた艦艇を我国が現実に保有するようになれば大したものである。米国海軍の外国海軍に対する相対的威力は非常に増加するであろう』と上院海軍委員会において言明した。
 以上の議論は等しく米国は決して本国の国防安全を以て満足すべきではない、進んで属僚フィリピンを十分に確保し、又いかなる場合たりとも支那、シベリア、南洋等の交通貿易を維持し得るがためには十分なる海軍を必要とし、東太平洋は勿論、西太平洋においても日本に優る兵量を有し、進んで、日本近海においても日本海軍を撃滅するものでなければならないというのである。まことに物騒千万な話ではないか。
 されば米国海軍の作戦方針は、対日攻勢作戦を以てその枢軸となし、これが研究に没頭しているのである。・・・・
 さきにも述べたごとくアングロサクソン民族は決して無算な行動を執るものではない。何処までも功利的に動いて徐々に且つ堅実にその歩武を進める。ワシントン、ジュネーヴ、ロンドンと手を変え品を代えて遂に理想の艦船補充に成功した。スチムソンが言明しているように、日本が手足を縛られながら足踏みして待っている間に、米国が18隻の大型巡洋艦を完成すれば、そこに米国の攻勢作戦が完了する時が来たのである。即ち日米戦争の準備が整ったことになるのである。その口実や時機のごときは米国にとっては朝飯前の仕事であろう。・・・・

 近世兵学の泰斗ジェネラル・バロン・ジョミニーはその『兵術論』において国家の戦争目的を左の九項に分類している。
一、国家の権利を防衛しもしくはこれを回復するため
二、農工商業のごとき国家の産業上の大利益を保護し、且つこれを伸張するため
三、国家の安全を図るため、もしくは国際均勢上必要なる隣邦の存立を保全するため
四、攻守同盟の義務を遂行するため
五、政治もしくは宗教の主義を伝播、保護、絶滅するため
六、領土拡張によって国威国力を伸張するため
七、脅迫に対し国家の独立を防衛するため
八、国家の栄誉体面に受けたる汚辱を雪ぐため
九、征服欲のため

 日本はすでに第三項によって日清日露の戦争を敢行し、第四項によって対独戦争を経過している。然らば日米戦争はいかなる戦争目的によって戦われるであろうか。米国にとっては第二項の産業貿易の伸張のためであり、日本にとっては第一項の国家の権利を防護し、第二項の産業貿易を保護し、第三項の国家の安全を図り、第七項の外国の脅威に対し国家の独立を防衛するための戦争となるのである。
 またその戦争の原因は支那問題、殊に満洲問題であろう。戦場は西太平洋であることは明々白々である。
引用終わり
posted by 小楠 at 07:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 書棚の中の戦争
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