2008年01月26日

昭和初期我国の軍備

深まりゆく日米の危機3

今回引用している書籍は、昭和七年三月に発行され、同年四月には五十八版を重ねた、海軍少将匝瑳胤次著「深まりゆく日米の危機」です。昭和七年頃までの米国の動きから、当時の日本と日本人が米国に対してどのような感情をもってどのような状勢判断をしていたかを知る資料になるものと思います。

引用開始
 世界大戦(一次)以来、本家の英国は聊かその伝統の国策に動揺を来した形跡があるが、その血を別けた分家の米国は、その参戦振りと云い、講和会議の牛耳振りと云い、爾後の主要なる国際関係の容喙振りと云い、全くそのお株を譲り受けたかの観があるのである。果然アングロサクソンの海洋優越主義は完全に両国によって絶対の占有を永久?に許すこととなったのである。
 この堅忍自彊にして、功利的なる民族性に育まれた英米二大海軍国に挟まれ、睨まれ、手を付けられた東洋は、まことに警鐘乱打の時機が近付いて来たのではないであろうか。もし少しく民族的歴史を研究し、即今の国際政局の動向を省察する人であるならば、側に厖大な無力な、不安定な、大国を控えて、これが支援に満身の勇気を喚起する日本の姿を眺めたら、さぞかし涙ぐましく感ぜられることであろう。

 私は徒に日本の国際的地位を悲観するものではないが、また徒に他国の諛辞に楽観的自惚れをするものではない。然し事実はアングロサクソン民族によって、その剛腹なる極東政策が着々と計画され実施され、展開されつつ、われ等の足元に迫って来つつあるのである。もし我が国に自ら守るの力なく、自ら行くの方針なく、ただ漠然として徒に他の好意に自国の運命を依頼せんとするような情けない気分があったら、それこそ言うまでもなく国家的自殺を遂げるものと言わなければならない。・・・・

 一国の国防は、その平時に在ってもよくその国の正当なる発展を擁護し、正義の主張を支持し、国権の伸張を確保するものでなければならないその有事の日に当っては、有効に軍事的能力を発揮して、交戦の目的を達成するものでなければならぬ。しかして我国に関する限りは、その地理的環境に顧みて生存権擁護に必要なる海面の制海権搉持が絶対的の緊要条件である。換言すれば我が国防の完成は平戦両時を問わず、わが生存と発展に必要なる海面を制御するに足るの海軍威力を厳存し、一朝有事に際しては、敵艦隊を撃滅して必要海面よりこれを掃討することを待って始めてその任を完うすることが出来るのである。・・・・・
 今日においても武力のバックなくしてその国勢を増進せしめた国があろうか。日清日露戦役を経て我が国富の増進は世界人をして驚嘆の的とならしめた。満蒙における我が貿易の拡張、通商条約の有利なる改正、国際的地位の進展等皆帝国の武力によってかち得たものならざるは無いと言っても過言ではないのである。・・・・・


 然し軍備はその有する相対性に鑑み予想敵国間に相互に合理的縮限を行い、負担軽減の方途に進むのは至極結構な事であるが、いやしくも国政に参するものにして、身を以て国民を率ゆる志に乏しく、ひたすら、民意を迎合するに急に、徒に財政の苦痛に口をかりて、国家発展の一大要素たる国防の第一義を無視するようになっては、たちまちにして国家防衛の道を失い、国勢の伸長を阻害し、一旦緩急あるも、又これに応ずるの術なきに至るであろう。

 更に国際政局の現状から観察すれば、我が国防充実の一日もゆるがせに付すべからざるものあるを認めるのである。曰く国際聯盟、四国条約、不戦条約等々の協約が戦後頻歳の協定を遂げて、僅かに国際葛藤の爆発を食い止めているが、かかる協定の叢生は一面国際政局の不安を雄弁に物語るものであって、他日欧州諸邦の戦傷の回復と、最強国の企画の完成が出来上った場合に、世界は再び修羅の巷と化し得るを誰が否認し得るであろう。

 多くの例をとって考うるまでもなく、かの軍縮会議における序曲は毎回平和の福音を以て奏で始めるが忽ち明日の戦争を目標として、驚くべき執拗と圧迫と詭弁と横議の騒音となって終結を告げるではないか。たまたま被圧迫国に対する交譲の精神を称賛する挽歌が余韻弱々として国際親善の空谷に消えて行くのを聴くに過ぎないではないか。
 日露戦争以前には、明らかに第四もしくは第五位を占むるに過ぎなかった米国海軍は、その後驚くべき拡張を行い、更に世界戦争に参加して、戦後一躍世界第二位の海軍国に躍進した。かくて三回の軍縮会議を経て完全に世界第一位の海軍国と成り済ましたのである。しかもここまで成り済ますまでには、歴代の大統領は世界の平和、国際の親善、人類愛の甘言美辞を連ねて世界に呼びかけるのを怠らなかった。

 しからば戦争を望まず、又、海上によらずして生存し得べき米国が、いかなる理由によって世界第一位の海軍を要するのであるか。
 あくなき富の集積と増殖に増上慢せる米人の一部には、世界の平和は絶対優勢なる一大強国の樹立と、その均衡によって維持されねばならぬと言っている。これ実に平和をその以外の弱者の屈服に求めるものであって、強者の言動に不可抗力の暴権を付与するものである。さればこそその内面においては将来の国策に最も緊切なる西太平洋の攻勢作戦を案画し、計画と実施に露骨の振舞いを以て日本に挑戦せんとするの態度を執っているのである。
 三回の軍縮会議もその声明するところは何であっても、その根本観念は国策の具に供する米国海軍政策の具現を容易ならしむるにあった。今や英国は伝統の海上覇王の王位を降り、日は六割比率に屈譲して驕米の意図ほぼその完成を告げた。吾人はこの眼前の事実に鑑みて国際政局の前途には、不安の煙幕がいかに濃厚に展張されているかを観取しなければならない。
引用終わり
posted by 小楠 at 07:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 書棚の中の戦争
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