ペナン島の印度人代表ラガバン氏
ご存知の方には興味深い本ではないでしょうか。インド独立とは切っても切れない人物・藤原機関のご本人(明治四十一年生れ)の著です。
表題は「F機関」副題として「インド独立に賭けた大本営参謀の記録」となっています。昭和六十(1985)年初版の本から抜粋してご紹介します。
引用開始
プ氏と私は三日間の予定をもってピナン(ペナン)に向かった。この地に詳しい鈴木氏が私達の自動車を操縦して案内に当った。われわれの本部は、この間にタイピンに躍進するように命じた。バタワースの対岸からながめたピナン(ペナン)は絵のように美しかった。六甲を背景とする祖国の神戸をしのばせるものがあった。・・・・
海岸の豪壮なオリエンタルホテルが、日本軍軍政機関の臨時の本部に当てられていた。英軍のために危うく印度へ連行される運命を免れ、監獄から印度人やマレイ人に救出される幸運を拾った日本人たちでにぎわっていた。・・・・
翌日午前プ氏の使いの案内を受けて、晴れのIIL結成大会場に臨んだ。広い会場は一万を越える印度人の大衆に埋められ、数流の印度国旗が浜風にはためいていた。プ氏と私はこの大衆の全視線に迎えられつつ正面の定めの席に導かれた。サリーという純白の印度服をまとった小柄な紳士が静かに進み出て、慇懃に握手の手を差し伸べた。大田黒氏の通訳を介して、この島の印度人代表ローヤル・ラガバン氏であることを知った。私は氏と対面のこの一瞬に、英知と慈愛と熱情を象徴する両眼、深い思慮と重厚な徳を示す、うるみを帯びた口調、謙虚な徳と清純沈静な風格を示す物腰など一見して氏は最高度の教養を身につけた衆望の紳士であることがうかがわれた。氏についで、ラガバン氏の縁者のメノン氏を紹介された。親しみ深い温厚な紳士であった。一同が席についてから、先ずプ氏が演壇に立って熱弁を振った。
プ氏はIILの目的や運動の経緯を語ったのち、アロルスターやスンゲイバタニ―において、IILの下に保護されつつある印度兵捕虜や住民の幸福な状況を説明し、更に近き日にそれらの印度人有志をもって印度独立義勇軍を結成し、祖国の桎梏を断ち切らんとする烈々たる決意を強調した。満場の大衆は熱狂歓呼してこれに応えた。プ氏に次いで私は壇上に送られた。アロルスターの大会と同様の趣旨を強調したのち、将来印度独立義勇軍が祖国解放の遠征にのぼる時来たらば、日本軍もまた旗鼓相和して支援すべき抱負を述べた。
最後にラバガン氏が起って、荘重なうるみのある声調をもって切々たる雄弁を試み満場の大衆を捉えた。特に日本軍が印度の解放に協力し、またIILを支援してマレイの印度人と印度兵捕虜を保護しつつある友情に対して、満腔の感謝を述べた。また祖国の解放と自由の獲得こそ、全印度人の念願であり、すべての印度人は祖国解放の闘いに殉ぜんとする愛国の熱情を蔵していることを強調し、IIL運動に対して全幅の支援と協力の用意を力説した。大会は大衆一致の共鳴を受けて終了した。大衆はこぞってIILに参加し、IILの運動と印度兵捕虜救恤のため、献金を申し出で、尊い献金が積まれた。
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