歴史の敗北者と国の衰滅
若狭和朋氏の著「日本人が知ってはならない歴史」の続編をご紹介しています。教育学博士若狭氏は、公立高校の教師を平成15年に退職後、現在は人間環境大学講師です。
「知ってはならない歴史」というのは、知られては困る歴史という意味である。私たち日本人に知られては困る歴史・史実とは何だろう。だれが困るのだろうか。
引用開始
私は高校教師の時、世界史の授業は「大航海時代」から始めました。古代から始めるよりも、現代に関係事項の多いこの時代から始める方が便利だったからです。
同類はいろいろあるようですが、ヨーロッパ人の冗談を紹介しました。
「イギリスを自慢しているやつはイギリス人だ。ドイツの悪口を言っているやつはフランス人だ。スペインの悪口を言っているやつはスペイン人に決まっている」
この冗談の主役はスペイン人です。
あのスペイン(イスパニア)大帝国はなぜ衰弱・没落したのか。
それは、スペイン人が自国を悪く言うようになったからです。悪く言う、つまり自国を悪く考えるようになってからイスパニア大帝国は衰滅に至りました。
誰がスペインを悪く言ったのでしょうか。
イギリスやオランダです。この両国はスペインの後輩国です。イギリスやオランダが植民地でいかに酷いことをしたかは、今では広く知られています。殺されたアメリカ原住民やインドネシア人のその数を知る人はいません。
同じことをスペインもやった「だけ」です。しかし、スペインは敗けました。悪口合戦に敗けたスペインは、歴史の敗北者になり果てました。つまりスペイン人たちはスペインの歴史に自信が持てなくなっていったのです。悪逆非道の国・虐殺の国・異端虐殺の国・暗黒の帝国・狂言の支配する国・・・無数の悪口がスペインに浴びせられました。
プロパガンダ(宣伝)合戦に敗北したスペイン人は、国民的に元気を失い歴史の敗北者にさせられました。自信を喪失し自己嫌悪に苦しみ、自虐に親しみ、寂しく自国を嘲笑する国民には衰滅しか道はありません。
スペイン衰滅に大きな力を発揮した一冊のパンフレットがあります。司教のバルトロス・デ・ラス・カロスの書いた『インディアスの破壊について簡素な報告』というのがそれです。岩波文庫にもあります。こんな調子です。
「・・・彼ら(スペイン人)は村々に押し入り・・・老いも若きも身重の女もことごとく捕え・・・引き裂きずたずたにした」
「彼らは誰が一太刀で身体を真っ二つに斬れるとか、誰が一撃のもとで首を斬り落とせるかとか賭けをした」
「ようやく足が地に着く程度の絞首台をつくり、十三人ずつ吊るし・・・生きたまま火をつけた・・・」
念のために言い添えますが、これは例の「南京大虐殺」の一節ではありません。このカロスのパンフレットは、敵に徹底的に利用されました。空想で描いた残虐な場面の銅版画とともに流布されました。この銅版画は日本の高校生の持たされる教科書・参考書にも載せられています。
イギリスが大英帝国として興隆していく過程で、スペイン帝国が衰滅していきました。科学技術や人文地理的分野からの考察はむろん必要ですが、国民国家の発展・衰滅の土台にはエトス(国民精神)の盛衰が基盤なのです。
続きを読む