2008年03月03日

ある兵士の支那事変8

杭州湾の敵前上陸1

昭和十三年十二月に新潮社から発行された戦場手記「征野千里」中野部隊上等兵 谷口勝著を引用掲載します。支那事変に従軍した一兵士の手記から、今回は杭州湾敵前上陸の戦闘の様子です。
写真は杭州湾敵前上陸の朝の光景
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引用開始
 寝転がったり唄ったりして三日ほどすると、突然、石原上等兵が階段をガタガタいわせながら飛び降りて来た。
「来てみい、えらいこっちゃ、えらいこっちゃ」と叫ぶ。「なんだ、なんだ」とみんながドッと階段に押し寄せた。階段を押されて甲板に出て見ると、アッと私たちは目を瞠った。この海を走っているのは私たちが乗っている『○○丸』だけだと思っていた。それだのに、何時、何処でどう集って来たものか、私たちの船の前後には、実に○隻に余る大船隊が二列縦隊にズラリと列んでいる。そして沢山の軍艦がこの船隊と列んで進んでいた。『○○丸』はこの大編隊艦船軍の一単位に過ぎなかった。完全に私たちはこの大景観に圧倒されてしまった。船は、そして軍艦は、一尺の延び縮みもないようにピッタリ間隔を保って堂々と波を蹴っていた。やがて○○○艦『○○』が何処からともなくその奇怪な姿を現して来た。海軍機が一斉に飛び立って或は先導したり或は二列縦隊の交互の連絡をとったりした。

「戦争って、こんなことが出来るもんかのう」と石原上等兵が感に堪えて嘆声を発した。ただ見惚れる綺麗さだった。「堂々たる」という言葉をこのときほどはっきり知ったことはない。・・・・
 ある日私たちの教官殿である児玉少尉が、私たちを甲板に集められた。児玉少尉は大きな体の広い胸を張って、「明日、我々は再び新しい戦闘をやる。こんどの戦闘は上海戦の横ッ腹に突入するのである。敗敵の退路に向って前進する。従ってある地点までは生きても死んでもあくまで強行前進が決行されるだろう!」と怒鳴られた。期せずして私たちの中からワーッと云う万歳の声があがった。「万歳、万―歳―!」
 そのとき私たちの船の横を真白な病院船が反対に通って行った。病院船の甲板には真白い看護婦さん達が一杯立ち列んで「バンザイ!」と叫びながらしきりと手を振っていた。幾日振りかで通り過ぎる船の上に日本の女を見たのだ。私達もまた手を振って「バンザイ!」と絶叫した。私たちは新しい戦場へ行く。これを白衣の天使は「バンザイ」と叫んで送ってくれる。必死に手を振った。ちぎれるようにいつまでも手を振った――。・・・・

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posted by 小楠 at 07:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 書棚の中の支那事変